最新記事

教育

画期的な制度なのに十分に活用されていない、大学生などへの奨学金給付

2022年11月16日(水)11時10分
舞田敏彦(教育社会学者)

まずは修学支援制度を周知させることが必要 Nuthawut Somsuk/iStock.

<2020年度から始まった年収380万円未満の世帯への修学支援制度だが、その利用度はあまり高くない>

日本の大学の学費は高いが、2020年度より、高等教育機関に通う学生への修学支援制度が実施されている。住民税非課税世帯の場合、学費はほぼ無償になり、自宅通学生には年額35万円、自宅外通学生には80万円ほどの奨学金が給付される。この奨学金は給付なので、返還の必要はない。

非課税世帯でなくても、年収300万円未満の世帯は上記の3分の2、年収300万円以上380万円未満の世帯は3分の1の支援が受けられる。このように傾斜をつけることで、支援の対象を広げる工夫も凝らされている。消費税を10%に引き上げたことによる増収を財源とするものだが、これまでにない画期的な支援制度と言っていい。

支援対象は年収が380万円に満たない世帯だが、それは大学進学年齢の子がいる家庭の中で何%ほどなのか。やや古いが、2017年の総務省『就業構造基本調査』によると、夫婦と子からなる世帯(世帯主が40〜50代)のうち、年収300万円未満の割合は3.6%、300万円台は5.3%となっている。単純に按分すると、380万未満の世帯の割合は3.6%+(5.3%×0.8)=7.9%となる。

思いのほか少ない印象だが、地域による違いがある。同じやり方で都道府県別の数値を出し、高い順に並べると<表1>のようになる。

data221116-chart01.png

ご覧のように10%を超える県が18県あり、3県では15%を超えている。最も高い沖縄県は26.1%で、大学進学年齢の子がいる家庭の4分の1が高等教育修学支援の対象であることが分かる。これは夫婦と子の世帯に限ったデータだが、1人親世帯を加えたら対象はもっと多くなる。

沖縄県の大学進学率は低いが、上記の支援制度についてもっと周知されれば、経済的理由で進学を諦める生徒も減るだろう。26.1%として試算すると、夫婦と子からなる世帯(世帯主が40~50代)のうち、年収が380万未満の世帯は2万1620世帯。同県内の大学の学生で給付奨学金をもらっているのは3759人(2021年度)。前者に対する後者の割合は17.4%でしかない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米雇用統計、4月予想上回る17.7万人増 失業率4

ワールド

ドイツ情報機関、極右政党AfDを「過激派」に指定

ビジネス

ユーロ圏CPI、4月はサービス上昇でコア加速 6月

ワールド

ガザ支援の民間船舶に無人機攻撃、NGOはイスラエル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中