最新記事

ウクライナ戦争

苦境プーチンの数少ない味方...イランはなぜ「かつての仇敵」ロシアを助けるのか?

Iran Is Now at War With Ukraine

2022年11月9日(水)18時07分
ジョン・ハーディ、ベーナム・ベン・タレブー(ともに米保守系シンクタンク「民主主義防衛財団」)

イランはロシアの後押しにより、21年に中ロ主導の上海協力機構への正式加盟が認められた。いわゆるBRICS(新興5カ国の経済グループ)への加盟も申請しており、ロシア主導のユーラシア経済同盟との自由貿易協定(FTA)恒久化も交渉中だ。

この状況に照らして考えると、ロシアに無人機やミサイルを提供し、軍事顧問を派遣する取引はイランにとって戦略的にプラスになる。反欧米の2大国の1つであるロシアに対し、イランの価値を示す効果も期待できる。

この取引で得られる見返りも重要だ。ロシアがこれまでイランへの売却を拒んできた戦闘機やS400地対空ミサイルシステムが、今後イランに提供される可能性もある(ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はロシアがイランの核開発を支援することを警戒しているが、その可能性は低いだろう)。

イランはウクライナでロシアを支援することによって、欧米製の防空システムなどに対抗する最新鋭無人機などの「実験場」を獲得する。ウクライナで得た教訓を、将来の兵器開発や中東での戦術に取り入れるのは確実だ。

アメリカを中東から遠ざける狙いも

さらにイランにとってウクライナでのロシア支援は、欧米に対する独自の対抗姿勢を強める意味合いもある。イランは長年、レバノンのヒズボラなど中東の武装勢力に兵器を提供することによって、自国の影響力の拡大と敵対勢力の弱体化を狙ってきた。いまイランは事実上、ヨーロッパで同じことをやっている。

しかもイランはウクライナの危機をあおることで、アメリカを中東から遠ざけようとしているとみられる。アメリカは現職までの直近3人の大統領が、いずれも中東より国内の問題に力を入れると示唆してきた。プーチンによるウクライナ侵攻が欧米の注目と資源を独占している今は、この流れをさらに促すチャンスだとイランは考えている。

だが皮肉にもイランの現在の動きは、欧米諸国の注意をこれまで以上に中東に向けさせる可能性がある。EUとイギリスはアメリカに続き、ロシアへの無人機提供を理由として、イランの軍関係者などを対象とした制裁を発動した。アメリカは、対イラン政策で欧州と連携を強化するチャンスを逃してはならない。

さらにアメリカは、ロシアとイランの連携強化を強調することで、ロシアに対抗する上での一層の支援をイスラエルや湾岸諸国から得るべきだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指

ワールド

米との鉱物協定「真に対等」、ウクライナ早期批准=ゼ

ワールド

インド外相「カシミール襲撃犯に裁きを」、米国務長官

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官を国連大使に指名
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中