最新記事

ウクライナ戦争

苦境プーチンの数少ない味方...イランはなぜ「かつての仇敵」ロシアを助けるのか?

Iran Is Now at War With Ukraine

2022年11月9日(水)18時07分
ジョン・ハーディ、ベーナム・ベン・タレブー(ともに米保守系シンクタンク「民主主義防衛財団」)

221115p32_UNI_02.jpg

テヘランのパレードで公開されたミサイル(今年4月) SOBHAN FARAJVANーPACIFIC PRESSーLIGHTROCKET/GETTY IMAGES

イランとアメリカの外交筋によれば、イランはロシアに対してシャヘド136などの無人機のほかに、短距離弾道ミサイルのファテフ110とゾルファガールを近く供与することで合意した。実現すれば、ロシアに対するイランの支援は一段と拡大する。

これらは固体推進剤を使う道路移動式の弾道ミサイルで、中東で最多のミサイル保有数を誇るイランの弾道ミサイルの中で最も精度が高い。射程距離はファテフ110が250~300キロ、その改良版として2016年に登場したゾルファガールは最大700キロとされる。

イランはこうした種類のミサイルを、過去5年ほど大規模な作戦で使ってきた。20年1月にはイラクの駐留米軍基地への攻撃に使用し、100人以上の米兵に外傷性脳損傷(TBI)をもたらした。また、これらのミサイルを協力関係にある中東の勢力に提供してきたが、東ヨーロッパに持ち込んだことはなかった。ロシアはこれらのミサイルを供与されるおかげで、在庫数が少なくなってきたイスカンデル短距離弾道ミサイルなどを温存することができる。

プーチン復帰とシリア内線で急接近

イランとロシアがウクライナをめぐってこれほど緊密に協力する事態は、イラン問題を扱うロシアの専門家を含めて多くの観測筋を驚かせている。両国はロシアの帝政時代から長く敵対してきた。

米政府と同盟関係にあった国王がイランを率いていた冷戦時代に両国の関係は緊迫し、79年のイラン革命後はさらに悪化した。イランの新政権は当時のソ連をアメリカと同じように「悪魔」と呼び、ソ連が侵攻したアフガニスタンの反ソ連勢力ムジャヒディンを支援。一方のソ連は、イラン・イラク戦争でイラクを支援した。

だがロシアとイランの関係は、12年にウラジーミル・プーチンがロシア大統領に復帰して以降、さらにはプーチンがロシアとイラン両国と同盟関係にあるシリアの独裁者バシャル・アサド大統領を支援するため同国に軍事介入した15年以降、急速に接近した。

互いへの警戒は今も完全には解けていないが、両国は共有する欧米諸国への反発から利害は一致するとの見方を強めている。正式な同盟は結ばなくても、今後ロシアとイラン、そして中国が関係を強化する動きは止められないだろう。

ロシアはウクライナ侵攻を開始して以降、イランとの連携を強化。イランの最高指導者アリ・ハメネイ師も、ロシアと中国との関係強化を目指してきた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米債市場の動き、FRBが利下げすべきとのシグナル=

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税コストで

ビジネス

米3月建設支出、0.5%減 ローン金利高騰や関税が

ワールド

ウォルツ米大統領補佐官が辞任へ=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中