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「赤い州」テキサス州に異変あり!? 激化する社会の分断と米中間選挙

A DIVIDED RED STATE

2022年11月9日(水)10時45分
前田 耕(ノーステキサス大学政治学部准教授)

私の大学の近くにある小学校が4年前に校名を変更した。旧名の「ロバート・E・リー小学校」は南北戦争時の南軍の将軍の名から取られていたが、新しい名前は、地元の教育に長年貢献した元教師の名前から取られた。

保守的な人々は、長く使われている学校の名前を今さら変える必要はないと反対したが、リベラル派からすると、南軍は人種差別側だからその将軍の名は学校の校名としてふさわしくない、となる。

その改名のニュースを報じた地元新聞のフェイスブックへの投稿には膨大な数のコメントが付き、賛成・反対両派が激しい罵り合いを繰り返していた。

保守・リベラルの対立は、どこへでも飛び火していく。新型コロナウイルスの件でももちろんそうで、共和党支持者のワクチン接種率は民主党支持者より数十ポイントも低く、年齢や人種よりも党派が最もワクチンへの態度を分けるという調査結果が複数出ている。

「自分は保守派だからワクチンは打たない」と宣言している人も見たが、しかし、政治的態度とワクチン接種は本来関連のないはずのものだろう。どうして共和党支持者がワクチンに懐疑的なのか、1つには政府への不信ということがあるだろうが、正確なメカニズムは分かっていない。

ネット上のデマを信じてワクチン接種の代わりに家畜用の虫下し薬を飲んでしまった人が、嘔吐や下痢の症状を訴えたケースもたくさん出たそうだ。「分断」の風潮は人々の健康にまで害を及ぼしている。

マスクを着けるかどうかも、まるで自分の政党支持の表明のようですらあった。幸いにも私はマスクのことで何か言われたことはないが、私のある友人(白人)は、店の中で、知らない男に指さされてマスクのことを嘲笑され、「脳みそがないのか?」と罵倒されたそうだ。

私が職場で顔を合わせる同僚たちのほとんど全員が、州外の出身である。しかし家に帰ると、ご近所さんの多くはもともとテキサスの人で、大統領選の際には「TRUMP」の旗や庭先に立てる看板があふれていた。

あまりテキサスっぽくない職場と伝統的なテキサスに囲まれた自宅と、その間を日々往復して私は暮らしている。「テキサスはレッドステート(共和党優位の州)」というのは表面的な見方にすぎず、実際は州の中に厳然と分断が存在しているのである。

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