最新記事

台湾有事

ロシア旗艦「モスクワ号」撃沈にいちばん動揺したのは、中国軍?──空母と台湾有事

The Moskva’s Lessons

2022年10月27日(木)14時51分
アレキサンダー・ウーリー(ジャーナリスト、元英国海軍将校)
台湾海軍

今年7月、大規模軍事演習でミサイルを発射する台湾海軍の艦艇 ANN WANGーREUTERS

<今年6月、3隻目の空母「福建」を進水させてばかりの中国。しかし、トラックに積んだ2発のミサイルで「モスクワ」を沈めたウクライナ軍の大戦果、そして台湾に対して何を考えたか?>

4月14日、海軍を持たないといってもいい国が、海で見事な勝利を収めた。ウクライナ軍が陸上から対艦ミサイル「ネプチューン」を2発発射し、ロシアのミサイル巡洋艦「モスクワ」を黒海に沈めたのだ。

【動画】ロシア巡洋艦「モスクワ」の「最期」

この衝撃的勝利は、約8000キロ離れた場所で起きるかもしれない紛争を考える際の参考になりそうだ。問題の海域ではいつか中国が、同様の地対艦ミサイルを用いてアメリカと同盟国を西太平洋から駆逐しようとするかもしれない。

ネプチューンの使用は、ウクライナの陸上部隊が戦力で圧倒的に優勢なロシア軍に対して巧みに展開した非対称戦の海上版に思える。

ウクライナはモスクワ号にミサイルを命中させたが、これは明確な戦略の一環というより射程圏に入った標的を臨機応変に捉えた形だ。だから応用できるケースは限られそうだが、台湾有事の戦略に関する議論で話題になっている。

過去数十年間、米海軍の艦隊は敵を寄せ付けることなく、敵国の海岸線に悠々接近することができた。ロシアも4月13日までは、黒海について同様の自信を持っていた。

「接近阻止・領域拒否(A2AD)」はアメリカの造語で、元来、米軍が領海に近づくのを阻もうとする中国の軍事作戦を指す。

A2ADの中で米艦隊にとって最も致命的になり得るのが、世界最大の陸上発射型ミサイル軍「人民解放軍ロケット軍(PLARF)」だ。ミサイル軍は西側ではなじみがないが、独裁国家の軍事パレードには欠かせない。

PLARFは、通常の弾道ミサイルと巡航ミサイル2000基以上を有する。南シナ海で米軍の空母打撃群を狙い、台湾付近に展開する部隊を本土沿岸の基地から援護できる対艦ミサイルにも力を入れる。

アメリカと同盟国軍の船上防衛システムを、PLARFは数で圧倒しようとするだろう。ウクライナがトラックに積んだミサイル2発でロシアの旗艦を沈めるのを見て、中国の軍事計画者は色めき立ったはずだ。

1983年に就役したモスクワは冷戦時代の老艦だった。対艦ミサイルで完全武装していたが、発射する相手はいなかった。

一方軍事化が進む現在の西太平洋では、兵器もそれを運搬するプラットフォームもセンサーも性能・規模共に進化し、技術革新競争が加速化している。

中国が改良する陸上発射型弾道ミサイルと極超音速対艦ミサイルに、アメリカと同盟国は敵の兵力を物理的に破壊する「ハードキル」と諜報活動や電子戦で無力化する「ソフトキル」の両面から対抗するだろう。

中国の極超音速対艦ミサイルは、既に南シナ海のほぼ全域を射程圏内に収めているとも言われている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

SBI新生銀行、東京証券取引所への再上場を申請

ワールド

ルビオ米国務長官、中国の王外相ときょう会談へ 対面

ビジネス

英生産者物価、従来想定より大幅上昇か 統計局が数字

ワールド

トランプ氏、カナダに35%関税 他の大半の国は「一
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 9
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 10
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中