最新記事

台湾有事

ロシア旗艦「モスクワ号」撃沈にいちばん動揺したのは、中国軍?──空母と台湾有事

The Moskva’s Lessons

2022年10月27日(木)14時51分
アレキサンダー・ウーリー(ジャーナリスト、元英国海軍将校)

221101p48_RGK_02.jpg

対艦ミサイルは空母にとり大きな脅威だ(19年4月、中国海軍創立70周年行事で) REUTERS

中国がアメリカに匹敵する諜報、監視、偵察能力を有するか否かについては議論の余地がある。遠距離から軍艦を攻撃するには、段階を踏まねばならない。そうした位置の確認から追跡、交戦、事後の査定に至る一連のプロセスは「キルチェーン・モデル」と呼ばれる。

台湾を「ハリネズミ化」せよ

軍拡競争が続くなかアメリカが期待をかける対抗策が、巡洋艦や駆逐艦のMk.41垂直発射システムに艦対空ミサイル「発展型シースパロー」を4発実装する「クアッド・パック」。

発射セルに1発ではなく4発のミサイルを収納すれば大規模攻撃への防御力が高まり、弾薬補給が困難な場合も攻撃の見通しがよくなる。実用化は先だが、対艦巡航ミサイルを迎撃するレーザーも開発中だ。

アメリカと中国、どちらが優位なのか。

「アメリカは再び自国を守れるようになりつつあると個人的には推測するが、それは新しいテクノロジーに触れ込みどおりの性能があるかどうかに懸かっている。だから断言はできない」と、米海軍大学のジェームズ・ホームズ教授は語る。

中国の習近平(シー・チンピン)国家主席がホームズと同じ見方ならば、早く台湾侵攻に踏み切るべきだと考えるかもしれない。「習が『やるなら今だ』と思い込むのを、私は懸念している」と、ホームズは言う。

だがこと台湾に関して、A2ADは中国の足かせにもなる。アメリカの艦隊を寄せ付けたくない中国は、A2ADのせいでかえってアメリカによる軍備の増強を招いた。台湾に侵攻するには、今でも既に世界で最も防御の堅い海域の1つで軍を動かさなければならないのだ。

モスクワ号の沈没を受けアメリカの議員はこのときとばかり、台湾の軍部に「ハリネズミ戦略」の理を説く。台湾の国土にハリネズミの針のようにびっしりミサイルを配備し、防衛力と抑止力を強化する計画だ。

「(中国からの)攻撃に弱い高性能な防衛システムではなく、低コストで最大の抑止力を発揮し、機動性と抗堪(こうたん)性の高いテクノロジー、つまりはウクライナが使用した対艦ミサイルのような兵器を中心に据える」と、米下院外交委員会の共和党トップであるマイケル・マコールは説明する。

だが台湾はなかなか納得しない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

FRB理事候補ミラン氏、政権からの利下げ圧力を否定

ワールド

ウクライナ安全保証、26カ国が部隊派遣確約 米国の

ビジネス

米ISM非製造業指数、8月は52.0に上昇 雇用は

ビジネス

米新規失業保険申請、予想以上に増加 労働市場の軟化
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害」でも健康長寿な「100歳超えの人々」の秘密
  • 4
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 7
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 8
    世論が望まぬ「石破おろし」で盛り上がる自民党...次…
  • 9
    SNSで拡散されたトランプ死亡説、本人は完全否定する…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 10
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中