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ロシア旗艦「モスクワ号」撃沈にいちばん動揺したのは、中国軍?──空母と台湾有事

The Moskva’s Lessons

2022年10月27日(木)14時51分
アレキサンダー・ウーリー(ジャーナリスト、元英国海軍将校)

「台湾の高官が中国に対し、在庫の少ない長距離地対地ミサイルで北京を攻撃するなどと挑発するのを聞くと本当に腹が立つ」と、ホームズは憤る。「台湾を民主主義的な国体として存続させるという重要課題から見て、報復攻撃にメリットはない」

台湾が独自のA2ADで中国に対抗するという発想は以前からあった。2010年にはホームズとアジア太平洋地域の専門家であるトシ・ヨシハラが、そうした戦略を提唱した。

だが台湾の軍指導部は頭が硬いことで悪名高く、他の中堅国家と同じく防衛の中枢となる兵器や、駆逐艦とフリゲート艦の艦隊にこだわる。それを変えるかもしれないのが、モスクワ号の一件だ。

アメリカにとっても中国にとっても地対艦ミサイルの存在は、「敵の海岸線に近づけば近づくほど船に危険が及ぶ」という海戦の常識をさらに固定化するだろう。

かつては砲台と砦(とりで)が沿岸を守った。現在では兵器の高速化とデジタル環境が反撃に要する時間を短縮し、一方で損傷した艦船は基地やドックまでより長い距離を移動しなければならない。

かの有名な英海軍のネルソン提督は「砦と戦う船は愚か」と言ったとされるが、確かに一理ある。1982年のフォークランド紛争の際、英空母インビンシブルとハーミーズはアルゼンチンの対艦ミサイルを恐れて、フォークランド諸島のはるか東に展開した。

戦場近くに展開する必要性

では、米空母打撃群が実戦部隊として存在感を示すには、中国の海岸線や中国が基地を建設した南シナ海の島々からどの程度の距離の範囲内にいなければならないのか。80年代よりもその範囲は狭まっている。

ジョン・レーマン元米海軍長官と米海軍分析センターのスティーブン・ウィルズ少佐は21年の共著論文で、今日の艦上機は航続距離にせよ積載能力にせよ、F14戦闘機やA6攻撃機のような旧型には及ばないと説いた。現代の空母は以前よりも戦闘が行われている場所に近づかなければならないのだ。

開発中の無人空中給油機MQ25スティングレイを使えば、F18戦闘機の航続距離は伸びるだろう。だがMQ25の実戦配備は早くても26年だ。

問題の厳しさは中国政府にとっても同じだ。台湾に侵攻するとしたら、どの大型艦隊を差し向けるのか。鳴り物入りで登場した新しい空母か。

政治学者のスティーブン・ビドルと安全保障戦略の専門家アイバン・オルリッチは16年に発表した論文の中で「アメリカの勢力圏は同盟国の領土周辺に、中国の勢力圏は中国本土になる一方、南シナ海と東シナ海の大部分は係争海域となり、ここでは海であれ空であれ、米中のどちらも戦時下において移動の自由を手にできない」との見通しを示した。

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