最新記事

日本社会

貧困に生まれ「いじめ」に苦しんだ私を外の世界に連れ出してくれた作文【エモを消費する危うさ:前編】

2022年10月18日(火)07時59分
ヒオカ(ライター)
中学生

ferrantraite-iStock.

<学校にも家にも居場所がなかった、貧困家庭出身の中学生。自分を取り戻すきっかけは、学校の作文だった。いま、話題の論客が言葉の力について思うこととは?>

アマゾンで買った「中古1円」の参考書で独学し、苦学の末に大学へ進学。社会に出てからは奨学金を返済しながら発信を続けている20代の論客がいる。初の著書『死にそうだけど生きてます』(CCCメディアハウス)で脚光を浴びる、ライターのヒオカ氏だ。

【関連記事】貧困について書くと悪辣なDMが大量に届く この日本社会で

制服が買えなかったこと。習い事や塾に通えなかったこと。大学でレポートを書くためのパソコンが買えなかったこと......。そうした経験から「あなたのすぐそばにいるかもしれない誰かの痛みに目を向けよう、みんなで社会を生きやすくしよう」と前向きに呼びかけている。

居場所がなかった中学時代。言葉で思考を整理し、表現することで救われたというヒオカ氏が、SNS全盛のいま、言葉について思うこととは? 『死にそうだけど生きてます』より抜粋する。

相談室で書いた課題作文

やわらかい場所に行きたかった。嘲りと侮蔑のまなざしを向けられない、心休まる世界に。憎悪や敵意のない、あたたかい場所に。

運動や行事、教室での他愛もないおしゃべり。そんな青春を全部あきらめて、生き延びることだけに主軸を置いた中学校生活は、生ぬるい日々の繰り返しで終わる。そう思っていた。

そんな中学3年生のある日、作文の課題が出た。県下全生徒が書くというもので、相談室の生徒も絶対に提出するようにとのことだった(編集部注:相談室は学校代わりに通っていた場所)。

どうせ先生くらいしか読まないだろう。そう思って、いじめられてから不登校になるまでの過程や、フリースクールでの日々、相談室生活を支えてくれた友人との交流を赤裸々に書いた。

しばらく経った頃、担任がやって来た。「あなたの作文、選ばれたから。県大会、出るよ」

一瞬何を言われているのかわからなかった。私は弁論の県大会に出場する代表に選ばれたのだ。近々開催される大会に備えて練習するように、とのことだった。

弁論大会が開催される市は毎年替わる。その年は私の中学校がある市の隣の市が会場だった。この地区での開催なら、同じ学校の生徒も聞きにくる。でも、隣の市の開催なので、知り合いは一人も来ない。だったら、出てみよう。なぜかそう思えた。

文章を書くのが好き、とはその頃は特に意識したことはなかった。いちど、教科書に出てくる詩を模して、自分を何かにたとえて心情を表現するという課題が出たことがあった。私は自分を空にたとえた。


死にそうだけど生きてます
 ヒオカ 著
 CCCメディアハウス

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 10
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中