最新記事
シリーズ日本再発見

貧困について書くと悪辣なDMが大量に届く この日本社会で

2022年09月02日(金)16時15分
ヒオカ(ライター)
ヒオカ

ヒオカ/1995年生まれ。地方の貧困家庭で育つ。noteで公開した自身の体験「私が“普通"と違った50のこと――貧困とは、選択肢が持てないということ」が話題を呼び、ライターの道へ。“無いものにされる痛みに想像力を"をモットーに、弱者の声を可視化する取材・執筆活動を行い、若手論客として、新聞、テレビ、ラジオにも出演

<なぜそんなことを言ってくるのか。貧困家庭の子は「生まれてきてはいけなかった」存在で、進学やあらゆる人生の選択肢をあきらめなくてはならないのか。貧困家庭出身の女性ライターが「可視化したい」ものとは>

貧困をテーマにした記事が公開されると、多くの人から理解を得られる一方で、目も当てられないようなコメントがたくさん付く。しかし、無理解の根源は、悪意よりも、単にごく身近に困窮している人がいないことからくる無知にあるのかもしれない。

地方の貧困家庭に生まれ育ち、現在はライターとして活躍するヒオカ氏が、初の著書『死にそうだけど生きてます』(CCCメディアハウス)を出版した。

制服が買えなかったこと、1円の中古で買った参考書で独学し大学受験に挑んだこと、大学に入ってからもパソコンを買えず、劣悪な環境のシェアハウスを転々とせざるを得なかったことなど、個人の半生を通して見えてきた社会をエッセイ仕立てで書いた。

「貧しければ部活動や習いごと、進学が制限されるのは当たり前だ」。時にそんな言葉を投げつけられながらも、ヒオカ氏はなぜ書き、発信を続けるのか。

――ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

◇ ◇ ◇

貧困家庭の子である私は生まれてきてはいけなかったのか?

「貧乏なら子どもを生むな」
「ちゃんと親が働かないからそうなるんだろう」
「この人の体験を、貧困なら子どもを生むなという啓蒙に使おう」

私が貧困家庭で育った体験について書く度、こんなDMが送られてくる。その度に、なぜ、子どもの立場である私に、わざわざそんなことを言ってくるのだろう、と複雑な気持ちになる。あまりに何度も言われると、遠回しに、生まれてくるべきではなかった存在なのだ、と言われているような気さえしてくる。

「(子どもを)生んじゃいけない人が生んだから、そんなことになるんでしょう」

これもまた、本当によく言われる言葉である。

子どもが生まれてくる環境は、できるならば整っていたほうがいいだろう。養子縁組や里親制度で親となる人の適性や養育環境が見られるように、本来、子どもが生まれ育つための最低限の条件はあるべきなのかもしれない。しかし、予測不可能なことは起こりうる。

私の父親は、私が生まれた後、働けなくなった。それまでは正社員で、それなりに収入を得ていたという。ところが、第二子である私が生まれた後、我が家は一気に困窮したのだ。

このように子どもが生まれてから、たとえば事故や怪我、障害、病気などで働けなくなることは、誰にでも考えられることだろう。そして、親が経済的に安定しない中、予期せぬ妊娠などで生まれてくることだってあるだろう。

「貧困なら子どもを生むな」と言っても、きっと生い立ちゆえに様々な困難を背負う子どもはいなくならない。本当は生まれてくるべきじゃなかったなんて言葉に、生い立ちを選べない子どもはさらに追い詰められる。どんな状況で生まれても、衣食住・教育・医療といった最低限の生活が守られる社会にすることが大切だと私は思う。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中