最新記事

米戦略

ロシアが核を使えば、アメリカも核を使う──ロシアを止めるにはそれしかない

TIME FOR A BLUNT HAMMER

2022年10月13日(木)17時05分
ウィリアム・アーキン(元米陸軍情報分析官)

221018p48_KYR_02.jpg

ウクライナからのロシア軍撤退や核戦争反対などを訴えるイギリスでの抗議デモ KRISTIAN BUUSーIN PICTURES/GETTY IMAGES

電磁パルス攻撃は「核攻撃」なのか

この計画官によると、EMP攻撃への対応は悩ましい。そのような攻撃も核兵器の使用には違いないが、地上への物理的攻撃ではない。だから在来型の核攻撃とは同一視しにくい。そうなると、アメリカが自動的に核兵器で反撃すべきかどうかの判断が難しくなる。

「必ずしも全ての核戦争が壊滅的なものとは言えない。高高度で爆発させるEMP攻撃や、さまざまな形の示威的な攻撃など、ほとんど人命の損失を伴わないこともある」と、ジョンズ・ホプキンス大学応用物理学研究所の科学者ジェームズ・スクーラスは書いている。つまりEMP攻撃の影響や、EMP攻撃が抑止戦略において果たす役割はまだ十分に検討されていないということだ。

敵が核兵器の先制使用に踏み切っても、すぐ全面的な核戦争が始まるとは限らない──このシナリオは、ここ数年で急浮上してきた。EMP攻撃を仕掛ける能力はどちら側にもある。また米軍には、わざと爆発力を弱めた小型の核弾頭があり、これを積んだ弾道ミサイルは原子力潜水艦に搭載可能だ。これなら限定的反撃にとどまり、全面的な核戦争は回避できると考えられる。

従来は核兵器こそが唯一無二の抑止力とされていた。しかし、そこに核兵器以外の抑止力のオプションが加わると、事態は複雑になり、それだけ対応は難しくなる。

「米国防総省の作戦計画も、それに必要な軍事的能力も、全ては戦略的抑止力、とりわけ核の抑止力が有効という前提に基づいている」。米戦略軍のチャールズ・リチャード司令官は今年3月、アメリカ空軍・宇宙軍協会の年次総会でそう述べた。

リチャードは、アメリカの核戦略の立案責任者だ。その人物がこういう言い方をするのは、核を抑止力とする冷戦時代のモデルがもはや通用しない恐れがあり、敵が核兵器を使った場合の対応も単純ではなくなってきたと危惧している証拠だろう。「核の抑止力が利かないなら......国防総省の戦争計画や能力の全てが狂う」。リチャードはそうも言った。

一方、NSC広報官のジョン・カービーはこう述べている。「(プーチンが核兵器の使用に言及したからといって)わが国の戦略的抑止態勢の変更を必要とする兆候は今のところ認められない」。つまり、核兵器を持ち出すのは最後の手段で、まずはそれ以外の手段でロシアの核攻撃を抑止するという姿勢を崩していない。これが政権の立場。だが米軍は既に、核兵器(とその運搬手段)の準備を始めている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請件数、1万件減の21.4万件 継

ワールド

EU・仏・独が米を非難、元欧州委員らへのビザ発給禁

ビジネス

中国人民銀、為替の安定と緩和的金融政策の維持を強調

ワールド

ウクライナ和平の米提案をプーチン氏に説明、近く立場
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 5
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 6
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 7
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 8
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 9
    【投資信託】オルカンだけでいいの? 2025年の人気ラ…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中