最新記事

米戦略

ロシアが核を使えば、アメリカも核を使う──ロシアを止めるにはそれしかない

TIME FOR A BLUNT HAMMER

2022年10月13日(木)17時05分
ウィリアム・アーキン(元米陸軍情報分析官)

「軍部が政権の意向に背いているわけではない」と、前出の軍情報部高官は言う。むしろ問題は政権内部の「意見が割れている」ことであり、いくら上層部が核抜きでロシアを抑止できると言っても、現実に「核の脅し」は始まっていると指摘した。

プーチンが核兵器の使用をほのめかした日には戦略軍のリチャード司令官も、アメリカは「核保有国(との戦争の可能性)に対峙する態勢に立ち戻った」と述べている。そして「これはもはや理論上の話ではない」と付け加えた。

また米海軍作戦部長のマイク・ギルデーは8月に海軍大学校で講演し、ロシアのウクライナ侵攻が始まった直後に海軍は「多数の艦船」を欧州戦域に派遣したと述べ、その多くは「潜水艦も含め、今も配備中」だとしている。こうした潜水艦は、遠く離れたロシア国内まで巡航ミサイルを撃ち込むことができる。

弾道ミサイル搭載原潜はいつでも配備可能

原子力潜水艦も24時間365日体制で攻撃に備えている。ある退役海軍将校は8月に、「もちろんSSBN(弾道ミサイル搭載原子力潜水艦)は通常どおり運用されており、いつでも配備できる」と本誌に明かした。SSBNは米軍にとって「最も重要な武器」だとも指摘した。

B52戦略爆撃機もノースダコタ州から4機、英フェアフォード空軍基地に配備され、ヨーロッパで前方展開している。この4機に核兵器は搭載されていないが、この数週間、2機がノルウェー周辺を飛行して北方からロシアに接近。別の2機はヨーロッパ中部を経由してルーマニア領空に入り、南方からロシアに接近して攻撃能力を示威した。

また爆撃機による核の脅威を誇示するため、戦略軍は9月23日までノースダコタ州のマイノット空軍基地で数日間の演習を実施した。この演習では、核弾頭を積んだ巡航ミサイルをB52爆撃機に搭載し、緊急発進させる訓練が行われたという。

「いかなる状況でも核兵器の使用は容認できないと明言しても、越えてはならない一線を引くことなしに、重大な結果を招くといくら警告しても、それを聞いたプーチンが核の使用を思いとどまる保証はない」。戦略軍の計画官はそう言い、こう続けた。「一般論で抑止力をちらつかせても、ロシアのウクライナ侵攻は防げなかった。プーチンが前のめりだったからではない。『手段を選ばず』と言うだけでは真の脅しにならなかったからだ。サリバン補佐官は(9月25日に)『そちらが核を使えば、こちらも対応する』と言ったが、それくらいでは抑止できない」

取材に応じた軍情報部の高官も言う。「私は(核の)抑止力を信じている。だが微妙な言い回しでこちらの真意が正しく伝わるかどうか、私には分からない。ここまで来たら、こちらも本気でハンマーを振り回すべきではないか」

ニューズウィーク日本版 トランプvsイラン
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月8日号(7月1日発売)は「トランプvsイラン」特集。「平和主義者」の大統領がなぜ? イラン核施設への攻撃で中東と世界はこう変わる

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、ウクライナ東部ルハンスク州全域を支配下に 

ワールド

タイ憲法裁、首相の職務停止命じる 失職巡る裁判中

ビジネス

仏ルノー、上期112億ドルの特損計上へ 日産株巡り

ワールド

マスク氏企業への補助金削減、DOGEが検討すべき=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中