最新記事

ウクライナ戦争

【河東哲夫×小泉悠】米欧の本音は「支援したくなかった」、戦争の長期的影響と日本が取るべき立場

2022年5月2日(月)16時45分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
プーチン

東ウクライナに兵力を集中させるプーチンだが、ノヴォロシアを取ってもどうするのかという問題がある(4月27日撮影) Sputnik/Alexei Danichev/Kremlin via REUTERS

<ウクライナ戦争はこれからどうなるか。NATOはどう対抗し、台湾情勢にはどんな影響があるか。『日本がウクライナになる日』著者・河東氏とロシアの軍事と安全保障戦略を専門とする小泉氏が議論を交わした>

戦況はどうなるのか。日本の安全保障は?

外交官としてソ連・ロシアに12年間駐在した経験があり、『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)を緊急出版した外交評論家の河東哲夫氏と、ロシアの軍事と安全保障戦略を専門とする東京大学専任講師の小泉悠氏による対談。

前編の記事(【河東哲夫×小泉悠】いま注目は「春の徴兵」、ロシア「失敗」の戦略的・世界観的要因を読み解く)では、ロシアが弱かった理由の分析から、ロシア国内の情報統制まで話が及んだ。

この後編は、首都キーフ(キエフ)から兵を引き、ロシアが立て直しを図る現状から議論が始まる。

(※対談は4月17日に行われた)

◇ ◇ ◇

――今後、ロシアはウクライナ東部に兵力を集中させて、再び進攻に転じるのか?

■小泉 軍隊には「再編成」という概念がある。キエフの周りには東部軍管区の第35軍と第36軍が主にいた。大きな軍が2つも移動してくるのは異常と言える。これが戦って大損害を受けたが、全滅することはない。そこで一度ベラルーシに下げて、今度は東に持っていこうとしていると思う。

プーチンとしては、キエフを攻撃したが、うまく行きませんでしたとやめるわけにいかない。国民に対して分かりやすい成果を作らないといけない。

ロシアはキエフからは退いたが、第二の都市であるハリコフ(ハルキウ)は退いていない。ここはロシア系住民の街。ハリコフから南のドンバス地方、マリウポリ、オデッサはかつてロシア帝国が開発した地域で、ロシア系住民が多いとされる。

ノヴォロシアと呼ばれるかつてロシアが開発したこれらの地域を影響下に収めることで、プーチンが言うところの「ロシア系住民を守るための特別軍事作戦」の目的を達成したと主張できる。戦争ではないから勝ち負けではないと言い逃れができる。だから今後は東部が重要になってくる。

西側の国も東部が重要と見ている。ロシアを怒らせると危ないから、これまではジャヴェリンぐらいしか供与していなかったが、3月末からは戦車や防空システム、装甲車両も送りはじめた。東部でロシアの大攻勢に耐えなくてはいけないのが理由。

東部で決戦が開かれるのではないか。東部は地形的にも開けていて、大軍同士の対戦に向いている。この戦争の二番底は東部で起きると思う。

■河東 ロシアはハリコフで焦土作戦を実施するんでしょうね。ハリコフ州は東ウクライナの中では唯一ロシアが唾をつけられないところだった。ロシア系住民が多いが、一方でウクライナの極右勢力が強いので、極右がハリコフを守っていた。そのハリコフを制圧できれば、ロシアには一定の成果にはなる。

ただ、どうやって攻めるのか。戦車が入っていっても、小型対戦車ミサイルのジャヴェリンなどにやられてしまう。戦車を使わないなら、大砲でやるんでしょうね。つまり、第二次大戦型の作戦が戻ってくる。

それに対してウクライナ側がどう対抗するのか。敵の発射位置をレーダーで察知して、そこに誘導弾を撃ち込む、あるいは「神風ドローン」を送るようことをするのか。

もう一つの疑問は、東ウクライナを制圧したとしても、ロシアはその後どうするのか。ウクライナ政府軍は攻勢を維持するだろうし。

■小泉 過去のシリアやチェチェンを見ても、ロシアは都市を丸ごと焦土にしてしまう。マリウポリもそうなった。ハリコフをまるごと焦土にするつもりだろう。

西側からの軍事援助で強調されているのは、長距離砲と対砲兵レーダー。これによって、大砲の撃ち合いで優位に立つ。平原では1943年のクルスク戦車戦のような古典的なことをまたやるのではないか。お互いに新型戦車は消耗しているので、両国とも旧ソ時代の戦車を現役復帰させることになる。

ノヴォロシアを取ってもどうするのかという問題はある。クリミアを併合した2014年時点では、クリミア周辺の地域を独立させてノヴォロシア連邦を作ろうとした。

ノヴォロシア連邦とウクライナの関係をどうするかという問題になる。東部ウクライナでの紛争の停戦に合意した第二次ミンスク合意は崩壊したが、では第三次ミンスク合意を作るのか。この先も相当大変だろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

原油先物続伸、米・ベネズエラ緊張など地政学リスクで

ワールド

南ア製造業PMI、11月は42.0 今年最大の落ち

ワールド

中国の主張「何ら事実ではない」=国連大使の2度目の

ワールド

カナダ、EU防衛プロジェクト参加で合意 国内企業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯終了、戦争で観光業打撃、福祉費用が削減へ
  • 2
    【クイズ】1位は北海道で圧倒的...日本で2番目に「カニの漁獲量」が多い県は?
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    600人超死亡、400万人超が被災...東南アジアの豪雨の…
  • 9
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批…
  • 10
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中