最新記事

地政学

かつて日本の「敗戦」を決定づけた要衝・ガダルカナルで今、中国がやっていること

A GAME-CHANGING DEAL

2022年4月27日(水)17時32分
パトリシア・オブライエン(歴史学者)

220503P52_SMS_02B.jpg

ソガバレの親中姿勢に反発するマライタ人らが首都ホニアラで行ったデモは暴動に発展。中国人経営の商店が放火や略奪に遭うなどの騒ぎとなった(昨年11月) GEORGINA KEKEA VIA REUTERS

それから4カ月、どうやらマライタ人の警告は正しかったようだ。ソガバレは、平和維持部隊のおかげで権力を維持するだけでなく、中国と安全保障協定を結ぶことで、中国に権力の座を保証してもらおうとしている。その決断はソロモン諸島だけでなく、アジア太平洋のパワーバランスも大きく動揺させている。

ただ、中国との安全保障協定の厳密な内容は、まだ明らかになっていない。閣僚でさえ全員がその内容を把握しているわけではないようだ。協定の内容を機密扱いにするのは、ソロモン諸島の「主権」を守るためだと、ソガバレは主張した。

だが、リック・ホウエニプウェラ前首相は、3月に草案がソーシャルメディアに流出していなければ、「安全保障協定は国民に秘密にされたままだっただろう」と語る。

中国の大規模な介入を可能にする文言や権限

ソガバレの最近のコメントと、草案のリークから1週間もしないうちに基本合意が発表されたことを考えると、最終版はリークされた草案と非常に近い内容である可能性が高い。そこで草案を改めて見てみると、協定は全7条から成ることが分かる。その条項は、中国がソロモン諸島に大きく介入することを可能にする、曖昧な文言や権限でいっぱいだ。

中国はこの協定に基づき、ソロモン諸島で大規模かつ多様な軍事活動や情報活動をできるようになる。なにより心配なのは、中国が「警察、武装警察、軍の人員など法執行機関や武装部隊」を配置して、ソロモン諸島の治安維持に深く関与できるようになることだ。

また、両国とも「自らの必要に応じた」措置を取ることができるという表現は、中国が南西太平洋で一段と軍事的プレゼンスを拡大する可能性を感じさせる。

もう1つの大きな懸念は、この協定が、中国の軍人らに「法的・司法的な免責」を与えていることだ。ソロモン諸島国立大学のトランスフォーム・アクォラウ教授は、この部分が今回の安全保障協定の最大の問題点の1つだと指摘する。

「国家主権の重要性を断固として唱える首相が、主権の基本的な機能である生命と財産の保護を、外国の軍隊に譲り渡すなんて皮肉な話だ」

これまでの歴史を考えれば、中国軍の出動を招くような騒乱が起こることはほぼ確実だ。ソロモン諸島の財政難を考えると、その懸念は一段と高くなる。昨年の騒乱と、今年に入り新型コロナウイルスの複数の変異株が一気に入ってきたせいで、この国の経済は大打撃を受けた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル軍がガザで発砲、少なくとも6人死亡

ビジネス

日銀、ETFの売却開始へ信託銀を公募 11月に入札

ワールド

ロシア、元石油王らを刑事捜査 「テロ組織」創設容疑

ビジネス

独ZEW景気期待指数、10月は上昇 市場予想下回る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃をめぐる大論争に発展
  • 4
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 10
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中