最新記事

台湾

ウクライナ侵攻「明日はわが身」の台湾人が準備しているもの

WATCHING UKRAINE, TAIWAN WARY

2022年4月19日(火)16時45分
ブライアン・ヒュー(ジャーナリスト)

台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統率いる政権は既に、予備役の1回の訓練日数を従来の約2倍に当たる14日間に延長し、3月上旬から新制度の下で訓練を開始。特に国際的メディアを意識して、準備態勢をアピールしている。

台湾では2018年12月に徴兵制が事実上廃止されたものの、18~36歳の男性は4カ月間の軍事訓練の義務を課されている。

かつての兵役義務と同じく、軍事訓練期間を1年間に延長する動きに、多くの政党はこれまで消極的だった。

蔡政権は軍事訓練義務の延長を検討し始めているが、兵役に対する若者の抵抗感は周知の事実だ。下手に踏み切れば、支持率をリスクにさらしかねない。

いずれにしても、民進党は今や、防衛費拡大に向けてより大きなチャンスを手にしているのではないか。これは、台湾に対するアメリカの長年の要求にかなう行動だ。

中国が侵攻してきた場合、外国が介入するまで何週間も自衛を迫られるかもしれない。ロシアのウクライナ侵攻で、そうした意識に目覚めた台湾では「自助・自立」への動きが加速する可能性がある。

民進党の若手政治家で、元台湾軍特殊部隊員の呉怡農(ウー・イーノン)が率いるシンクタンク、壮闊台湾連盟は有事に備えて訓練を受けるよう呼び掛けている。こうした姿勢は全社会的な現象とは程遠いものの、民進党を中心とする緑色陣営で勢いを増しているようだ。

ウクライナは、軍事力がはるかに上の相手に対する「非対称戦争」戦略の成功例だとの考えの下、同様の戦略に比重を置くことも予想される。

米国製兵器をめぐる疑問も

とはいえ、誇示を主目的とする高額の兵器を購入するのか、それとも台湾防衛に役割を果たせる実用的な武器を買うのか。

非対称戦争路線には、緑色陣営と国民党中心の青色陣営の泥沼の論争が待ち受けていそうだ。しかも、台湾が購入可能な武器についてはアメリカに発言力があるため、蔡政権が一存で答えを出せるわけではない。

ウクライナ侵攻の教訓として、中国は敵の指導部を除去する「斬首作戦」や短期決戦により力を入れる可能性が高い。

従って、戦時における政治指導者の早期排除を回避する防衛手段を入手することに、台湾は関心を高めるだろう。

青色陣営はこの数年、アメリカは台湾に武器を売却したいだけではないかとの疑念をかき立てようとしてきた。同陣営に属する政治家は、アメリカは時代遅れの使えない品を売り付けているとも批判している。

【関連記事】習近平、幻の「秋に台湾侵攻」計画...ウクライナ戦争で白紙に(ロシア内部文書)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

11月百貨店売上は0.9%増で4カ月連続プラス、イ

ビジネス

物価目標「着実に近づいている」と日銀総裁、賃上げ継

ビジネス

午後3時のドルは155円後半で薄商い、日銀総裁講演

ワールド

タイ11月輸出、前年比7.1%増 予想下回る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中