最新記事

精神医学

マジックマッシュルームがもたらす幻覚が、「鬱病」を劇的に改善

TRIPPY TREATMENTS

2022年1月11日(火)10時30分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

220111P42_MKM_05.jpg

既に何百社ものバイオテクノロジー企業が参入の構えを見せている JAMES MACDONALDーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

プレスリーは合唱団に加わり、ヒゲを剃って旧友や家族、周囲の社会と交流する努力を再開した。療法士と共に心が再び暗闇に覆われた際に取るべき行動をリスト化した。友人や恋人に電話する、ジムに通う、歌う、専門家と話をする......。

「私は疲れ切っていた」と、プレスリーは治療を受ける前の自分を振り返る。「それが突然、解消した。まるで昼と夜のような違いだ」

こうした体験は、柔らかなソファや風景画などが置かれた精神科の快適な診察室ではよくあることだという。ジョンズ・ホプキンズ大学幻覚剤・意識研究センターで療法士サービスの責任者を務めるメアリー・コシマノは、臨床試験のセッションに475回以上参加してきた。

神の腕で休んでいるような安らぎ

拒食症治療のためにシロシビンを使った研究に参加したある被験者は、「神の腕の中で休んでいる」かのような安らぎを覚えた。自分は無価値だと感じ、仕事で誰かと話すのが怖かったという別の被験者は、あるセッションで仕事中の自分の姿が見え、同僚たちが「とても小さく」感じられて彼らを「食べてしまった」。この経験から、職場に戻った彼女は同僚と対等な関係になり、仲間として接することができるようになった。

00年代初めに末期癌患者の治療に携わったUCLAのチャールズ・グロッブ教授(精神医学・生物行動科学)によると、患者の多くは今この瞬間に集中するという新たな能力を身に付けたという。

最初、グロッブの患者の大半は、重度の実存的苦痛(生きることの意義を感じられないことによる苦痛)、無力感、抑鬱、不安に苦しんでいた。しかし、シロシビンを用いると、心の平安が取り戻されて、家族との時間を大切にし、残された日々を充実させようと決意する人が多かった。

しかし、コシマノによると、次のステップも同じくらい重要だ。多くの臨床試験では、セッション終了後、被験者はその経験をレポートに記すものとされている。療法士はその内容に基づいて、セッションでの経験がその人にとってどのような意味を持つのか、その経験を日々の生活にどのように生かせばいいかを見いだす手伝いをする。この作業を怠ると「元の状態に戻ってしまう」と、コシマノは言う。「自己規律を育まなくてはならない」

これらの薬品が臨床の現場で患者を救う未来をつくりたければ、推進派は過去の失敗を繰り返してはならない。医療以外の場で薬を乱用することと、厳重な監督の下で安全に薬を用いることの間に明確な一線を引く必要がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中