最新記事

精神医学

マジックマッシュルームがもたらす幻覚が、「鬱病」を劇的に改善

TRIPPY TREATMENTS

2022年1月11日(火)10時30分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

イギリスのバイオテクノロジー企業コンパス・パスウェイズの共同創業者であるジョージ・ゴールドスミスは、この点を重く考えている。同社では、10カ国で233人を対象に臨床試験を進めている。

ゴールドスミスには、個人的な思い入れもある。ゴールドスミス夫妻は、精神疾患の息子の治療法を探していたときに幻覚剤療法と出会い、この種の治療法を表舞台に復活させたいと願っているのだ。

そこで、臨床試験の設計過程で監督官庁と緊密に連絡を取り、顧問委員会には権威ある専門家を何人も招いた。米国立精神衛生研究所(NIMH)のトム・インセル元所長もその1人だ。「この分野でもイノベーションが必要とされていると思う」と、インセルは語る。

過去の「失敗」は繰り返せない

インセルが恐れるのは、医療とは関係のない要素でせっかくの取り組みの足が引っ張られることだ。アメリカでは近年、シロシビンの合法化を目指す運動が勢いを増していて、いくつかの都市では既に住民投票で合法化が支持されている。連邦法ではまだ違法とされているが、医療機関以外での使用が広がれば、昔のように悲惨な事例が相次いで、再びイメージが悪化しかねない。

それでも、早くも何百社もの新興バイオテクノロジー企業が資金調達を始めている。これらの薬品を臨床で用いるための研究に着手している研究グループは100を軽く超す。

FDAが幻覚剤を用いた治療を承認するとすれば、いくつかの特別な条件を課す可能性が高い。医療機関以外で服用しないこと、慎重なコントロールの下で用いること、しかるべき訓練を受けた医療従事者が服用させることが条件とされるだろう。

「とても過酷な経験をするケースが少なくない半面、恩恵も多い」と、ゴールドスミスは言う。「見たくない幻覚を見ることになるかもしれないが、大きな治療効果が得られる可能性もある。そこで療法士が付き添うことが重要になる」

幻覚剤を用いた治療は、適切な状況で実践すれば、ほかの治療法で効果が見られなかった患者を救えるかもしれない。

プレスリーは臨床試験に参加して3年がたつ。今も時々鬱の症状に見舞われるが、その症状に押しつぶされることはなくなった。抑鬱状態から抜け出すためにどうすればいいかも分かっている。両親や兄弟との絆を再確認することが有効だと気付いたのだ。私的なことを語ることへの抵抗も少なくなったという。

「いくつかのことを正しい組み合わせと正しい順番で実践すればいいのだと分かった。その好ましい状態を自分の力で実現できるようになった」と、プレスリーは言う。「おかげで情熱が戻り、心の底からやる気が湧いてくるようになった」

ニューズウィーク日本版 大森元貴「言葉の力」
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月15日号(7月8日発売)は「大森元貴『言葉の力』」特集。[ロングインタビュー]時代を映すアーティスト・大森元貴/[特別寄稿]羽生結弦がつづる「私はこの歌に救われた」


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

カナダ外相、今週訪日 戦略的パートナーシップ深化へ

ワールド

イラン大統領、米国との対話に前向きな姿勢表明 信頼

ビジネス

日本と韓国に25%の関税、トランプ氏が表明

ワールド

ウクライナ第2の都市に無人機攻撃、1人死亡・71人
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 2
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 5
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 6
    米テキサス州洪水「大規模災害宣言」...被害の陰に「…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 9
    ギネスが大流行? エールとラガーの格差って? 知…
  • 10
    新党「アメリカ党」結成を発表したマスクは、トラン…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中