最新記事

ヨーロッパ

中国の怒りを買おうとも...EUの台湾への急接近は、経済的にも合理的な判断だ

Europe Is Doubling Down on Taiwan

2021年11月17日(水)17時40分
トーステン・ベナー(独グローバル公共政策研究所所長)
台湾の蔡英文総統

台北で欧州議会のグリュックスマン議員と面会する蔡英文総統(11月4日) TAIWAN PRESIDENTIAL OFFICEーREUTERS

<中国経済に逆らえなかったはずの欧州が「台湾重視」に豹変。民主主義的価値観だけではない2400万人市場の魅力とは>

去る11月3日、欧州議会の公式代表団が史上初めて台湾に足を踏み入れた。欧州議会の「外国の干渉に関する特別委員会」の面々は台湾に3日間滞在し、総統の蔡英文(ツァイ・インウェン)や行政院長(首相)の蘇貞昌(スー・チェンチャン)、立法府(立法院)を代表する游錫堃(ヨウ・シークン)らとの協議に臨んだ。

10月末にも、やはり史上初めて台湾外交部長(外相)の呉釗燮(ウー・チャオシエ)がブリュッセルで、9カ国を代表する欧州議会議員や複数のEU本部当局者(個人名や肩書は公表されていない)と「非政治的レベル」の協議をしている。

こうした相互訪問は前例のないもので、欧州の台湾政策における大きな変化を示唆している。これまで欧州議会や加盟国の一部が主張してきた路線を、欧州委員会や(加盟国全体の外交政策などを調整する)欧州対外行動庁も支持するようになってきた。

その背景には、民主主義の友邦である台湾を支えるためなら政治的にも経済的にも投資を惜しまないという欧州側の意思がある。それは経済的な利益にもなり、台湾海峡の現状を守り平和を保つことにも役立つ。台湾にも欧州にも攻撃的な姿勢を強める中国に対し、ひるまず剛速球を投げ返す姿勢だ。

10月には欧州議会が、台湾との関係を強化し「包括的かつ強化されたパートナーシップ」の確立を求める決議を採択している。そこにはEUと台湾の投資協定や、各種の国際機関で台湾が果たす役割を強化することへの支持、科学や文化、人材面での交流の拡大、メディア・医療・ハイテクなどの分野での協力推進などが含まれる。

この決議はさらに、台湾におけるEUの出先機関「欧州経済貿易弁事処」の名称を「EU駐台湾弁事処」に改め、「EUと台湾の結び付きの広さを反映させる」ことも求めている。これが580対26の大差で可決された事実は重い。

EUの足並みがそろう

さらに注目すべきは、長年にわたり中国政府の怒りを買うことを懸念して台湾との関係強化に消極的だった欧州委員会や欧州対外行動庁が、この決議に賛同したことだ。外相に当たる外交安全保障上級代表のジョセップ・ボレルもマルグレーテ・ベステア上級副委員長(競争政策担当)も支持に回った。

これは欧州議会における親台勢力、とりわけドイツ選出のラインハルト・ビュティコファー議員らにとって目覚ましい勝利だ。中国政府は激しく反発するだろうが、彼らの提案は伝統的な「一つの中国」政策の枠組みを全く崩していない。台湾の独立を支持しているわけではなく、むしろ台湾海峡の現状の維持を唱えている。

欧州議会の採択した決議の内容は全て、従来の「一つの中国」政策の範囲内に収まる。要は今までの解釈が狭すぎただけだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個

ワールド

「トランプ氏と喜んで討議」、バイデン氏が討論会に意
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中