最新記事

日本社会

有権者に届かない政治家の言葉を言語学的視点から考える

2021年10月29日(金)19時10分
アルモーメン・アブドーラ(東海大学教授、日本語日本文学博士)
街頭演説に耳を傾ける有権者

立ち止まって街頭演説に耳を傾ける有権者(10月19日、東京) Issei Kato-REUTERS

<衆院選の候補者たちは与党・野党にかかわらず「国民目線」を強調するが、その訴えは果たして、有権者が身近に感じ、期待できるような言葉になっているだろうか>

衆議院選の投票が間近に迫っている。民主主義の祭典の1つである「議会選挙」のレースを懸命に走ろうとする各政党や候補者がテレビとラジオの政見放送やネット配信動画などを通じて有権者に政策やビジョンを語りかける。しかし世論といえば、いつものように関心が薄いことに変わりはない。

今回の選挙は「何選挙?」と調べてみると、コロナ禍の経済の立て直しや感染対策など危機脱出の目標や公約をほとんどの政党が掲げていることが分かる。これも新型コロナウイルスの感染拡大後、初めての国政選挙となることから、当然と言えば当然である。

そして、まさしく、テレビやラジオ、ネットなどを通じた政見放送や動画配信こそ、立候補者個人や政党が自らの描くビジョンや未来へ託す思いなどを有権者に語りかけられる貴重な機会となる......はずだ。

これは何も今に始まった話ではなく、日本の政見放送の開始には長い歴史がある。戦後初の総選挙となった1946年(昭和21年)4月の第22回衆議院議員総選挙に際し、NHKのラジオ第1放送において初めて実施されたという。これに加わったのが、SNSなどによる情報発信や動画配信である。

そこで最大の武器となるのは、言葉である。そう、立候補者や政党代表が有権者に向けて発信しているメッセージを載せた言葉だ。その言葉のいかんこそ、国民を投票所に向かわせる効力があるとされている。

有権者が失望する理由

言葉は「社会・文化を映し出す鏡」と言われている。若い頃はあまり実感していなかったが、最近は本当にそうだと思う。

完璧な調査を行ったわけではないが、この1週間で調べた政見放送や候補者のキャッチフレーズなどには、こんな言葉や表現が多用されている。

「国民を守る」「暮らしを守る」「子供を守る」「支え合う社会」「コロナ禍との戦い」「新しい時代を〜とともに」「〜を支給する、給付する」「新しい資本主義」「積極財政」「国難を乗り越える」「暮らしに希望を」「新しい時代を切り拓く」「ジェンダー平等社会」「国民に寄り添う」「日本の未来を描きます」「捧げる政治」「元気な日本と経済」「未来への責任」「デジタル化」、「次の日本に責任」「社会保障」「気候変動」など。

こうした耳あたりのよい言葉は果たして有権者に響いているのだろうか。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

良品計画、25年8月期の営業益予想を700億円へ上

ビジネス

良品計画、8月31日の株主に1対2の株式分割

ワールド

中国、タイ・カンボジア国境紛争解決に協力も 「公正

ビジネス

午後3時のドルは146円後半へ上昇、トランプ関税で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 7
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 8
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 9
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 10
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中