コラム

そもそも有権者にまともな意志決定能力がないのではないのか? という調査

2019年02月25日(月)15時00分

Nenadpress-iStock

<子供にも選挙権を? 「我々有権者の多くは政治に関してほとんど何の知識も無い」 という調査結果が出されている>

アメリカにおいて、21人の子供が政府を訴える訴訟が始まった。

トランプ政権が地球温暖化を否定していることはよく知られているが、それによって被害を受けるのは子供世代であるとして、地球温暖化を促進する石油燃料の生産に必要な機材のリースの一時差止を求めるといった内容のようだ。ノーベル賞経済学者のジョゼフ・スティグリッツも、原告側を支持する意見書を提出している。

この種の訴訟は、裁判の勝ち負けよりも、ある社会問題に目を向けさせることを重視した、いわゆるパブリシティ・スタントであることが多いわけだが、それはそれとして、現時点の子供たちの未来の権利に関して、それをどう民主主義に取り込むかということについては、様々な議論がある。

子供に投票権を付与して、親が代理で投票する「デメーニー投票」

といっても真面目に議論されるようになったのは比較的最近のことで、デメーニー投票(Demeny voting)がよく知られている。人口統計学者パウル・デメーニーの名から取ったもので、子供にも投票権を付与するが、ただし成人するまでは親が代理で投票する、といったものである。子供が一人いれば親は2票行使できるわけで、親を通じて子供も現時点の意志決定に参加できる、というのが眼目だ。

ちなみにDemeny votingは日本ではデーメニ投票とかドメイン投票と呼ばれているようで、もしかするとこれらが正しい発音なのかもしれないが、去年彼が母国ハンガリーの勲章をもらったときの記事を見るとDeményとメにアクセントが来ているので、たぶんデメーニーかドメーニーじゃないでしょうか。

デメーニー投票は、いわゆるシルバー・デモクラシーの悪影響の緩和に有効なのではないかと言われていた。少子高齢化によって有権者数のバランスが崩れているので、単純多数決では数で勝る高齢世代の意見が通りやすくなるが、デメーニー投票によって子育て世代の発言権が相対的に強まれば、子育てがしやすくなって出生率が上がる可能性もある。

ただ、子育てする親の利害が子供と本当に一致するかというと、議論の余地があるように思われる。例えば、自動車が必須の地域に住む親ならば、将来の地球温暖化よりも当面ガソリンが安くなるほうを選ぶ可能性もあるだろう。また、そもそも父親と母親で意見が異なる場合があるのではないかとか、親が離婚したらどうするのかとか、アイデアとしては単純だが実際に実施する上ではハードルが高い。

プロフィール

八田真行

1979年東京生まれ。東京大学経済学部卒、同大学院経済学研究科博士課程単位取得満期退学。一般財団法人知的財産研究所特別研究員を経て、現在駿河台大学経済経営学部准教授。専攻は経営組織論、経営情報論。Debian公式開発者、GNUプロジェクトメンバ、一般社団法人インターネットユーザー協会 (MIAU)発起人・幹事会員。Open Knowledge Foundation Japan発起人。共著に『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、『ソフトウェアの匠』(日経BP社)、共訳書に『海賊のジレンマ』(フィルムアート社)がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米10月ISM非製造業指数、52.4と8カ月ぶり高

ビジネス

米BofA、利益率16─18%に 投資家に中期目標

ワールド

トランプ関税の合憲性、米最高裁が口頭弁論開始 結果

ビジネス

FRB現行政策「過度に引き締め的」、景気にリスク=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇の理由とは?
  • 4
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 7
    若いホホジロザメを捕食する「シャークハンター」シ…
  • 8
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story