コラム

陰謀論信じる反マスク派がソーシャル・ディスタンス主張、別の陰謀論が流された?

2021年05月21日(金)15時50分

マスクの強制に激しく抵抗する反マスク派の一部の主張が変わってきた...... REUTERS/Henry Nicholls

<反マスク・反ワクチン派がソーシャル・ディスタンスを主張しはじめた。マスクやソーシャル・ディスタンスを正当化するような別の「陰謀論」が意図的に流されたのか?>

最近VICE誌に面白い記事が載っていた。「反マスク論者、マスクをする準備中──ワクチン接種者から身を守るために」(Anti-Maskers Ready to Start Masking--to Protect Themselves From the Vaccinated)と題するもの。

反マスク・反ワクチン派が主張しはじめたソーシャル・ディスタンス

新型コロナウイルス対策としてのマスクの強制に激しく抵抗する反マスク派、そしてワクチン接種に強く反対する反ワクチン派がいて、この二つがかなりかぶっていることはよく知られている。ところが最近になって、これらの説を信奉する陰謀論者たちの中から、マスクをしよう、ソーシャル・ディスタンスを取ろうと主張する連中が出てきたらしい。

この背景にあるのは、「排出(shedding)」説である。ワクチン接種者からワクチン(の中にある何か有害なもの)が「排出」され、近くの人、特に女性が影響を受ける。典型的には、生理不順や流産が発生するとされる。

ソーシャル・メディア上で、自分はワクチン接種していないのに接種者の近くにいただけで流産してしまった、というような書き込みから広がった。mRNAワクチンが接種された場合、mRNAが排出されて周りの人の遺伝情報を改変してしまう、というような流派もあるようだ。

陰謀論ビジネスの格好の餌場になっていた

これは実のところ、反マスク・反ワクチン派の心情をうまく捉えたプロパガンダと言える。こうした人々は、別に健康に留意していないわけではない。むしろ必要以上に健康を気にしているのである。ただ、ワクチンは接種者を不妊化して人口を減らすための世界的陰謀だと思っているだけなのだ。

ゆえに、この世界観に合致していて、しかもマスクやソーシャル・ディスタンスを正当化してくれるような「陰謀論」があれば、そちらを信奉するにやぶさかでないのである。

従来こうした需要は、健康にはなりたいがビッグ・ファーマ(製薬大企業)は信用しない、ということで、怪しげな健康食品やサプリメントを売りさばく陰謀論ビジネスの格好の餌場になっていたのだが、それを封じられる可能性があるという点でも価値が高い。

説得が難しい陰謀論者に向けて意図的に流された?

個人的に興味があるのは、このプロパガンダが「意図的」に流されたものなのかどうかだ。結果として、公衆衛生としては好ましい結果になっているからである。

アメリカにおけるワクチン接種も、あるところまでは順調に進んだが、それは元々ワクチン接種に積極的な層が相手だったからで、残りは反ワクチンか、少なくともワクチン接種に消極的な層と考えられる。この岩盤を突破できないと、集団免疫が達成可能な割合には到達できない。

プロフィール

八田真行

1979年東京生まれ。東京大学経済学部卒、同大学院経済学研究科博士課程単位取得満期退学。一般財団法人知的財産研究所特別研究員を経て、現在駿河台大学経済経営学部准教授。専攻は経営組織論、経営情報論。Debian公式開発者、GNUプロジェクトメンバ、一般社団法人インターネットユーザー協会 (MIAU)発起人・幹事会員。Open Knowledge Foundation Japan発起人。共著に『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、『ソフトウェアの匠』(日経BP社)、共訳書に『海賊のジレンマ』(フィルムアート社)がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

林氏が政策公表、物価上昇緩やかにし1%程度の実質賃

ビジネス

午後3時のドルは147円前半へ上昇、米FOMC後の

ビジネス

パナソニック、アノードフリー技術で高容量EV電池の

ワールド

米農務長官、関税収入による農家支援を示唆=FT
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story