最新記事

フィリピン

「独裁者マルコス」と「暴君ドゥテルテ」の同盟でフィリピンの悪夢が甦る

2021年10月12日(火)17時51分
マイケル・ベルトラン(ジャーナリスト)
マルコスJr.

独裁者の息子マルコスJr.が大統領選に名乗り ROUELLE UMALIーPOOLーREUTERS

<来年5月の大統領選に向けた構図は混沌としているが、その中で存在感を放っているのがドゥテルテ一派と故マルコス元大統領の長男だ>

フィリピンの人々にとって、1972年から9年間続いた戒厳令の時代は、暴力、人権の抑圧、権力者による不正蓄財などがまかり通った暗黒の時代だったというのが一般的な見方だろう。

当時フィリピンに君臨していたのがフェルディナンド・マルコス大統領だ。この独裁者は86年に民衆の反乱により権力の座を追われ、89年に亡命先のハワイで死去した。

先頃、そのマルコスの息子であるフェルディナンド・マルコスJr.(通称「ボンボン」)が2022年5月のフィリピン大統領選への立候補を正式に表明した。これまでは北イロコス州知事や上院議員などを務めてきた。

息子が常に父親の罪について責任を問われるべきだとは言えない。しかし、マルコスJr.は、戒厳令時代がフィリピン社会の発展に寄与したと言ってはばからない。9月に出演したテレビ番組では、父親の時代がフィリピンを近代化させたと言ってのけた。

ドゥテルテ現大統領の就任以降、マルコスJr.の人気はじわじわ高まっている。ドゥテルテが故マルコスの権威主義的統治を模倣していることもその一因だろう。

実際、ドゥテルテ家とマルコス家はおおむね良好な関係にある。マルコス家の面々はドゥテルテ政権に好意的な発言をしているし、ドゥテルテは16年に故マルコスの遺体を首都マニラの国立英雄墓地に埋葬している。

マルコス時代がフィリピンを近代化させたというマルコスJr.の主張は、一部の有権者には受けるのかもしれない。当時に郷愁を抱く人たちは、発展のためにはある程度の人権侵害もやむを得ないのではないかと考えるだろう。こうした考え方は、ドゥテルテ政権支持者の多くが訴えている主張とよく似ている。

ところが、実際には、マルコス政権最後の2年間、フィリピンのGDPは大幅に下落し、大規模なインフラ整備事業のいくつかも中止に追い込まれた。マルコスが独裁政治を行っていた期間に、国の債務も大きく膨れ上がった。一方、マルコス家は、国の財産をかすめ取り、大掛かりな不正蓄財を行った。

マルコス時代は、フィリピン経済が壊滅的打撃を被り、汚職がはびこった時代だったのである。

それだけではない。政権による人権侵害も横行していた。同政権下で投獄された反体制派は7万人以上、法的手続きを経ずに殺害された人は3200人を上回る。

野党陣営は、大統領選でドゥテルテ家とマルコス家が何らかの形で手を組むことに神経をとがらせている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

不明兵捜索、時間との戦い イランの猛攻耐えた米軍救

ワールド

トランプ氏、イランに合意期限「6日」 米戦闘機乗員

ワールド

米、イランで不明の戦闘機乗員救出 トランプ氏「史上

ワールド

イラク南部の巨大油田に攻撃、3人負傷 イラン国境に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 2
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 3
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙の2大テーマでAI懸念を払拭できるか
  • 4
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 5
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 6
    イラン戦争は「ハルマゲドンの前兆」か? トランプ…
  • 7
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 8
    【写真特集】天山山脈を生きるオオカミハンター
  • 9
    血圧やコレステロール値より重要?死亡リスクを予測…
  • 10
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 5
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が…
  • 6
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 7
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 8
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 9
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 10
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中