最新記事

地球温暖化

100年に1度の極端水位が今世紀末までに毎年発生するおそれ

2021年9月27日(月)17時20分
松岡由希子

極端水位の発生頻度が100倍に高まる Michael DeMocker/USA TODAY Network via REUTERS

<100年に1度くらいの低頻度で発生していた極端水位が、今世紀末までに毎年発生するようになるおそれがあることが明らかになった>

高潮や満潮、高波によって極端に水位が上昇する「極端水位(ESL)」は、沿岸域の集落や生態系に甚大な影響をもたらす。これまで100年に1度くらいの低頻度で発生していた極端水位が、地球温暖化に伴って、今世紀末までに毎年発生するようになるおそれがあることが明らかとなった。

21世紀末までに極端水位の発生頻度が100倍に高まる

米国エネルギー省(DOE)太平洋北西部国立研究所(PNNL)の研究チームは、世界7238地点を対象に、地球の気温上昇が産業革命前比1.5度〜5度となった場合の極端水位について予測。2021年8月30日、学術雑誌「ネイチャー・クライメートチェンジ」でその研究成果を発表した。

これによると、「パリ協定」が努力目標として定める産業革命前比1.5度の気温上昇でも、対象地点の約半数で、21世紀末までに極端水位の発生頻度が100倍に高まると予測。産業革命前比2度の気温上昇では、極端水位の発生頻度が100倍となる地点がさらに14%増える。また、早い地点では、2070年代に極端水位の発生頻度が100倍に上昇する可能性もある。

極端水位の海面上昇によって最も影響を受けるのは低緯度の熱帯地域だ。南半球、地中海やアラビア半島の沿岸、北米太平洋岸の南側、ハワイ、カリブ海、フィリピン、インドネシアなどで影響が懸念されている。

極端水位は今世紀末までに世界全体でより頻繁に起こる

研究チームは、一連の研究成果をふまえ、「パリ協定で定められた目標が達成されるとしても、沿岸域に洪水をもたらす極端な現象が世界の多くの地域で頻繁に起こるおそれがある」と警鐘を鳴らす。

今回の研究結果と同様、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の2019年のレポートでも「地球温暖化により、極端水位の事象は今世紀末までに世界全体でより頻繁に起こるようになるだろう」と言及されていた。また、英イースト・アングリア大学らの研究チームは、2021年3月に発表した研究論文において「海面上昇が沿岸域に与える影響は従来の4倍にのぼる」ことを示している。

Lands That Will FLOOD in Our Lifetime

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

OPEC月報、石油需要予想据え置き 年後半の世界経

ビジネス

米GM、ガソリンエンジン搭載ピックアップとSUV増

ワールド

トランプ氏「ベセント氏は次期FRB議長の選択肢」、

ビジネス

FRB、インフレ抑制へ当面の金利据え置き必要=ダラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 5
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 6
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中