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ドキュメント 癌からの生還

最先端!がんセンター東病院トップが明かす「若者」「バカ者」「よそ者」な医師たち

2021年7月21日(水)11時50分
金田信一郎(ジャーナリスト)

──遺伝子パネルはちょっと前まで、30万〜50万円かかる自由診療でしたね。

今は保険適用されました。さらに、リキッドバイオプシーといって、採血で遺伝子の変化が分かるようになってきています。スクラムジャパンでもう1万人近くの患者さんで遺伝子解析し、つい先日、薬事承認されました。どうすれば患者さんに一番効果が出るかを検討しながら進めています。

我々が持っているデータは恐らく、世界でもトップクラスになっています。現在は、解析から臨床応用まで、さまざまな場面でゲノム医療をつくるグループになっています。

今では、DNAだけではなく、遺伝子の発現に重要なRNAやタンパク発現を見たりすることが、薬剤選択や次の創薬に重要になってきています。

私は定年に近いけれど、こんな時代が来るとは思いませんでした。がんの遺伝子の状態も分かるし、RNAの発現の状態も分かるとは。がんの周囲にはさまざまなリンパ球があり、そのリンパ球がどのように集まってがん細胞を攻撃しようとしているのか、または機能してないのか。隣の東大柏キャンパスに、遺伝子の解析で日本の第一人者がいますので、一緒に共同研究を進めています。

これからの課題は、研究の先の企業化です。これが日本は圧倒的に弱いですから。ベンチャー企業をつくっていかないと、海外と勝負できません。いくらすばらしい技術を持っていても、アメリカには勝てないのです。後藤くんや吉野くんたちはベンチャー企業を立ち上げて、アジア各国にスクリーニングシステムを広げ、海外からのデータも収集してきています。またRNAなどを含むマルチオミックス解析も始めています。たぶん、世界で最大規模の研究になってきています。

──ここで開発をやる。

この病院で始めて、多数の企業との共同研究を進めています。日本企業もいいものを出すようになっています。第一三共は乳がんと胃がんで特殊なタンパク質を発現している人に効く新しい薬を開発してヒットさせました。その治験を世界で最初に東病院で行っています。2020年に承認されました。

──日本発のがんの薬が出てきたわけですね。

スクラムジャパンに、臨床とゲノムの膨大なデータベースをつくってありますが、企業や医療機関、アカデミアと情報を共有しています。それぞれが有効活用して新しい薬を開発しています。米NCIも同様の研究を進めていますが、成果は負けていないと思います。国内の主な企業はすべて参加しています。

──なんで、藪の中に忽然と現れた病院が、遅れていた日本医療の中心になって、突出したモノを作り出せるようになったんですか。

それはパッションがある職員が多いんじゃないですか(笑)。

──パッションですか。

パッションですよ。新しいモノを作るのはパッションが重要で、シリコンバレーのことを当事者の先生にうかがうと、アップルはじめ、多くの企業がなぜ成功しているか、という話と共通項があると思います。

「若者」「バカ者」「よそ者」が、天才的な科学の才能がある。

ただ、科学の天才がいてもダメで、周りに経営のサポーターが必要です。日本でも例えば、ソニーの井深大と盛田昭夫、ホンダの本田宗一郎と藤沢武夫のように、(技術と経営の)ペアが必要です。

──そういう若くて破天荒な人材がいるわけですね。

ここは国立でありながら、開院以来自由度が高い。そういう文化を開院当初の幹部の先生方がつくられ、受け継がれてきています。自由度が高くて、新しい挑戦ができる。スクラムジャパンを立ち上げる時は「大丈夫か」と思ったけれど、突っ走っちゃう先生方が多くて、それがうまく回っている。

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