最新記事

ドキュメント 癌からの生還

最先端!がんセンター東病院トップが明かす「若者」「バカ者」「よそ者」な医師たち

2021年7月21日(水)11時50分
金田信一郎(ジャーナリスト)

kanedanotebook.jpg

ノートにメモをとる取材中の筆者 HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN

──それでも追いついてきたんですか。

私はレジデントの時に少し基礎研究をやりましたが、その素養がないと、今の抗がん剤の開発研究にはついていけません。そこで、隣接する先端医療開発センターに優秀な基礎研究の先生たちが集まっているので、レジデントの先生が来ると、半年ぐらいそこを回らせています。

その先端医療開発センターも、2008年に私がセンター長になりました。それから、臨床検体や免疫を解析する基盤などをつくっていきました。大きく進んだのは、2011年に国の事業で、早期・探索的臨床試験拠点整備事業に選定されてからです。全国5施設の一つに選ばれて、事業費を国からもらえるようになって、本格的に基盤をつくり始めることができました。

それまで、この病院には本格的な臨床開発研究を実施する基盤がなかったのですが、今では企業との治験や共同研究を多数行っています。

単に企業から治験を受託するだけではなくて、医師が自ら考えて新薬の開発治験をする「医師主導治験」をできる体制をつくっています。臨床研究中核病院が大学病院を中心に14施設ありますが、臨床研究筆頭著者論文数は東病院がトップです。病院のサイズは一番小さいですが。

──大津先生が気づいて、遅れを取り戻した。

例えば、今、日本はワクチンの開発が遅れてますよね。でも、ファイザーやモデルナ、アストラゼネカなどの外資ではコロナワクチンは、ベンチャー企業やハーバード大学、オックスフォード大学などの研究成果をもとにワクチンを作っているわけです。今の米国製薬企業の新薬の6〜7割は自社以外のアカデミアやベンチャー企業のシーズ(薬の種)を取り込んで製造しています。

──東病院でいえば、隣で東大がゲノム研究をやっています。

それは大きいですね。日本で承認されるがんの薬の多くは、この病院で治験をしています。今度、京都大学のiPS細胞を使ったがんの免疫細胞の治療を始めます。光免疫療法も実施していますが、これはNCI(米国立がん研究所)の小林(久隆)先生が開発した技術に、楽天の三木谷(浩史)さんが投資をしました。そこから光免疫療法が始まっている。日本での開発はこの病院で土井(俊彦)副院長と林(隆一)副院長が中心になってやりました。がんで発現している特定の分子に対して、抗体をくっつけて、近赤外線を当てて、がん細胞だけを消滅させる。

──頭頸部がんに使っている治療法ですね。

はい。食道がんでも医師主導の治験を行っています。光免疫療法でも、別の抗体を開発している研究者もいます。

──2005年の「どん底」から、10年ほどでかなり巻き返したわけですね。

その2015年、スクラムジャパン(SCRUM-Japan:遺伝子スクリーニングプロジェクト産学連携全国がんゲノムスクリーニング)を始めました。遺伝子の診断パネルができても、問題は、多くのドライバー遺伝子異常の頻度が低くて、1〜2%程度です。そこで、一括で測れる遺伝子診断パネルが開発され、1回で遺伝子の異常が何十個、何百個という単位で分かるようになりました。東病院の呼吸器内科長の後藤(功一)くんと、消化管内科長の吉野(孝之)くんの2人が中心になって、全国215の医療機関と製薬企業17社との共同研究として、スクラムジャパンを設立しています。

すでに、2万〜3万人の患者さんの遺伝子解析をして、遺伝子異常に適合した新薬の治験に登録することで、より早く患者さんに有効な薬剤を届けています。2019年には遺伝子パネルも薬事承認されたので、一般の患者さんにも使ってもらえます。東病院は、全国の患者さんに治療が行き渡る3〜5年前から治療をやっている。そんな感覚ですね。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

カザフスタン、アブラハム合意に参加へ=米当局者

ビジネス

企業のAI導入、「雇用鈍化につながる可能性」=FR

ビジネス

ミランFRB理事、0.50%利下げ改めて主張 12

ワールド

米航空各社、減便にらみ対応 政府閉鎖長期化で業界に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの前に現れた「強力すぎるライバル」にSNS爆笑
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 6
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 9
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 10
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中