最新記事

人体

「ストレスが緩和されると白髪が元の色に戻ることがある」初めて科学的に検証された

2021年7月2日(金)17時15分
松岡由希子

ストレスがミトコンドリアの変化を誘発し、白髪になる...... OlafSpeier-iStock

<白髪が増える他の要因として心理的ストレスも長年指摘されてきたが、米コロンビア大学の研究チームが初めて定量的に示した>

加齢に伴って、毛を産生する「毛包」内の色素細胞が死滅し、これによって髪は自然と色素を失う。白髪が増える他の要因として心理的ストレスも長年指摘されてきたが、これを裏付ける科学的な証拠は示されていなかった。

「心理的ストレスと白髪には相関がある」初めて定量的に示した

米コロンビア大学の研究チームは、2021年6月22日、オープンアクセスジャーナル「イーライフ」で、「心理的ストレスと白髪には相関があり、ストレスが緩和されると髪の色が回復することがある」ことを初めて定量的に示した。

研究チームでは、まず、9〜65歳までの男女それぞれ7名(計14名)を対象に、毛髪を採取させるとともに、毎週、ストレス度を評価して記録してもらった。

次に、研究チームは、被験者の毛髪の薄片を高解像度の画像でとらえ、各薄片の色素喪失の度合いを分析した。それぞれの薄片の幅は、約1時間で伸びる長さに相当する0.05ミリだ。その結果、白髪の一部が元の色に自然と回復していることが定量的に示された。

また、被験者の「ストレス記録」と毛髪とを時系列で重ね合わせたところ、ストレスと白髪には顕著な関連がみられ、ストレスが晴れると白髪が元の色に戻るケースもあった。研究論文の責任著者でコロンビア大学のマーティン・ピカード准教授は「バケーションに出かけると毛髪5本が元の色に戻った人もいた」と補足している。

ストレスがミトコンドリアの変化を誘発し、白髪になる

さらに研究チームは、毛髪内の数千ものタンパク質のレベルを測定し、髪の色が変化する際、300種類のタンパク質に変化が起こっていることを示した。数理モデルによれば、ストレスがミトコンドリアの変化を誘発し、これによって白髪になると考えられる。

ピカード准教授は、このメカニズムについて「ミトコンドリアは細胞の動力源として知られているが、心理的ストレスなど、様々な信号に反応する細胞内のアンテナのような役割も果たしている」と解説する。

また、数理モデルによると、白髪になるまでには閾値があるとみられる。ピカード准教授は「生物学的年齢やその他の要因により閾値に近づく中年では、ストレスによって閾値を超え、白髪になる」とし、「すでに白髪になった70歳の高齢者がストレスを軽減させても髪の色が元に戻るわけではないし、10歳の子供がストレスによって閾値を超えて白髪になることも考えにくい」との見解を示している。

一連の研究結果は、米ハーバード大学の研究チームが2020年1月に発表した「マウスに急性ストレスを与えると、毛包のメラトサイト幹細胞(色素を産生するメラニン細胞の前駆体)が不可逆的に消失し、白髪になる」との研究結果とは一致しない。この点について、共同著者で米マイアミ大学のラルフ・パウス教授は「ヒトの白髪は元の色に戻ることがある。マウスの毛包の仕組みはヒトとは異なる」と述べている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ECB、6月に追加利下げ その後休止へ=ギリシャ中

ビジネス

ECB、サービスインフレの鈍化を確信=レーン理事

ワールド

ロシアとウクライナの拘束者交換「完了」、トランプ氏

ワールド

新興国株ファンド、リターン好調 米国から資産分散
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:関税の歴史学
特集:関税の歴史学
2025年5月27日号(5/20発売)

アメリカ史が語る「関税と恐慌」の連鎖反応。歴史の教訓にトランプと世界が学ぶとき

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドローン母船」の残念な欠点
  • 2
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界の生産量の70%以上を占める国はどこ?
  • 3
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 4
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到し…
  • 5
    空と海から「挟み撃ち」の瞬間...ウクライナが黒海の…
  • 6
    「空腹」こそが「未来の医療」になる時代へ...「ファ…
  • 7
    子育て世帯の年収平均値は、地域によってここまで違う
  • 8
    米国債デフォルトに怯えるトランプ......日本は交渉…
  • 9
    人間に近い汎用人工知能(AGI)で中国は米国を既に抜…
  • 10
    【クイズ】世界で2番目に「自動車の生産台数」が多い…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドローン母船」の残念な欠点
  • 4
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 5
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」…
  • 6
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到し…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「太陽光発電」を導入している国…
  • 8
    「空腹」こそが「未来の医療」になる時代へ...「ファ…
  • 9
    中ロが触手を伸ばす米領アリューシャン列島で「次の…
  • 10
    人間に近い汎用人工知能(AGI)で中国は米国を既に抜…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
  • 5
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 8
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中