最新記事
医療とテクノロジー

余命わずかな科学者が世界初の完全サイボーグに!?

2019年11月18日(月)18時00分
松岡由希子

テクノロジーの活用により重度の障害を乗り越える可能性を探る..... Peter Scott-Morgan-Twitter

<「運動ニューロン疾患(MND)」の末期と診断された科学者が、自ら実験台となって、テクノロジーの活用により重度の障害を乗り越える可能性を探ろうとしている......>

難病により余命わずかな61歳の英国人科学者が「世界初の完全サイボーグ」に変身しようとしている。

30年にわたって政府機関や民間企業で活躍したのち、2007年以降、自身の研究活動に専念していたピーター・スコット=モーガン博士は、2017年、「運動ニューロン疾患(MND)」の末期であると診断された。運動ニューロン疾患は、2018年3月に死去した英理論物理学者のスティーブン・ホーキング博士が闘い続けた病としても知られ、運動神経細胞がゆっくりと変性し、重要な機能や随意運動を制御する神経システムの能力が次第に失われていく難病だ。

「これが『ピーター1.0』としての最後の投稿です」

スコット=モーガン博士は、運動ニューロン疾患と診断された後、研究プロジェクト「ラディカル・ディスアビリティ・プロジェクト」を立ち上げ、自ら実験台となって、テクノロジーの活用により重度の障害を持つ人々の生活の質を大幅に向上させる試みを行っている。


2019年10月には24日間をかけて自らを「アップグレード」した。「アップグレード」直前の10月9日、公式ツイッターで「これが『ピーター1.0』としての最後の投稿です。僕は死ぬのではない。変身するのだ」と綴っている。

自らを「世界初の完全サイボーグ」と

スコット=モーガン博士は、11月12日、一連の医療処置を終えた。博士曰く「アップグレードを終えて『ピーター2.0』となった」。

小型の人工呼吸器をつけ、栄養チューブを胃に直接挿入し、カテーテルを膀胱に挿し、人工肛門を結腸につなげた。唾液が肺に入るのを防ぐために咽頭を除去し、音声合成でコミュニケーションするようになっている。

また、顔の筋肉を失う前に、非常にリアルなアバターを開発している。これは、人工知能のボディーランゲージを使用して反応する。コンピュータを操作する視線追跡技術がコンタクトレンズに反応しないため、レーザー手術も受けた。これによりコンピュータと連動したベッドや補助器を自分自身で動かすことができる。

スコット=モーガン博士は、自らを世界初の完全サイボーグと称し、人類の歴史上最も進化した「人間のサイバネティックス生命体」だと位置づけている。さらに、「ピーター2.0」は、物理的空間の「身体」ではなく、デジタル空間の「マインド」となる未来をイメージしている。

テクノロジーの倫理的な活用にまつわる研究をサポート

スコット=モーガン博士は、運動ニューロン疾患にかかったことをきっかけに、「スコット=モーガン基金」を創設。病気や年齢、心身の障害によって制約を受けている人々の能力を拡張する手段として、人工知能やロボット工学など、テクノロジーの倫理的な活用にまつわる研究をサポートする取り組みにも着手している。

スコット=モーガン博士は、公式ブログの最後をこのように締めくくっている。
「人間として死に、サイボーグとして生きる。僕にとっては簡単なことだ。」

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億

ビジネス

アップル、新たなサイバー脅威を警告 84カ国のユー

ワールド

イスラエル内閣、26年度予算案承認 国防費は紛争前

ワールド

EU、Xに1.4億ドル制裁金 デジタル法違反
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 2
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開きコーデ」にネット騒然
  • 3
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...ジャスティン・ビーバー、ゴルフ場での「問題行為」が物議
  • 4
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 5
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 8
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 8
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 9
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 10
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中