最新記事

宇宙探査

NASAが40年ぶりの金星ミッションへ 気候変動で何が起きるのかを探る

2021年6月11日(金)15時00分
青葉やまと
金星

金星は、気候変動や保持していた水を失ったとき惑星に何が起きるのかなどを読み解くロゼッタストーン...... Credits: NASA/JPL-Caltech

<2つの惑星探査ミッションが始動。地球とほぼ同時期に誕生しながら高温と硫酸の惑星となった、金星の謎を解き明かせるか>

NASAはこのほど、金星探査プロジェクト2つを同時に発表した。1978年のパイオニア・ヴィーナス計画以来およそ42年ぶりの金星探査機として、2030年度の打ち上げを目指している。プロジェクトはそれぞれ、比較的低予算での惑星探査を想定したコンペ「ディスカバリー2019」から選定されたものだ。低予算とはいえ、NASAはそれぞれに約10億ドルを投じる。

選定されたミッションの1つ目は「DAVINCI+(ダヴィンチ・プラス)」と呼ばれるもので、ひらめきと先見性に秀でたレオナルド・ダヴィンチに由来する。このミッションの核となるのは、2つの探査機だ。打ち上げ後、大型の探査機が金星の公転軌道付近を周回し、2年間で金星を2回フライバイする。その際、紫外線カメラで雲の動きを追跡するほか、放射熱を測定して地表組成の推定に活用する。

打ち上げから2年後、大型機に搭載した直径1メートルほどの小型探査機を放出し、小型機は約1時間の下降を経て金星の地表に着陸する。装備したセンサーを通じ、金星の大気の組成、気温、気圧、風速などを測定する計画だ。小型機は近赤外線カメラも備えており、分厚い雲の層を抜けたタイミングで、巨大な高地であるアルファレジオの鮮明な姿を捉える。

800px-DAVINCI_Venus_mission_descent.jpg

DAVINCI+ credit:NASA

2つ目のプロジェクトは「VERITAS(ヴェリタス)」と呼ばれ、地形の解析に特化したものだ。高解像度の3Dデータを取得し、これまで把握できなかった細かな構造を明らかにする。また、高さ方向の変化を測定する干渉合成開口レーダーと呼ばれる機器を使用し、地表の活断層の状況を捉える。地球の人工衛星以外への同レーダーの搭載は初の試みだ。

060221_lg_venus-missions_feat.jpg

VERITAS credit:NASA/JPL-Caltech

かつては水と生命が存在したかもしれない

地球と金星はほぼ同時期に誕生し、サイズや太陽からの距離なども互いにさほどかけ離れているわけではない。しかし、地球が生命と水の惑星になったのに対し、金星は生命の生存に厳しい環境となった。金星の気圧は地球の90倍で、地表温度は鉛が溶けるほどの高温となり、雲は硫酸でできている。何が二つの惑星の運命を分けたのかは謎に包まれており、NASAは金星を「ミステリアスな地球の双子」とも呼んでいる。

二つの惑星の差をめぐって現在議論されている説に、かつて地球と同様に水でできた海が金星にも存在したとする考え方がある。その後、7億年ほど前に起きた圧倒的な温室効果が急激な気温上昇を招き、高温で海が消滅してしまったのだという。はるか昔に水があったのであれば、その時点では生命が存在した可能性も残されている。こうした説を検証するデータを得ることも、今回のミッションに期待される成果の一つだ。

DAVINCI+の主任研究員であるジェームス・ガーヴィン氏はNASAのニュースリリースのなかで、「気候変動や居住適性の変化、そして長期にわたり保持していた水を失ったとき惑星に何が起きるのかなどの記録を読み解くうえで、金星は『ロゼッタストーン』のような存在です」と語る。解読を待つ貴重なデータの宝庫というわけだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

フランス、米を非難 ブルトン元欧州委員へのビザ発給

ワールド

米東部の高齢者施設で爆発、2人死亡・20人負傷 ガ

ワールド

英BP、カストロール株式65%を投資会社に売却へ 

ワールド

アングル:トランプ大統領がグリーンランドを欲しがる
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中