最新記事

ワクチン

今こそ見直すべき「子供の予防接種」 防げる病気で子供を苦しませた親の後悔

Vaccine-Preventable Suffering

2021年5月20日(木)20時07分
高木由美子(本誌記者)、ケリー・ウィン、ウィリアム・アンダーヒル(ジャーナリスト)
予防接種を受ける子供(イメージ)

病気への抵抗力が弱い乳幼児は、できるだけ早く、多くの病気に対する免疫を付ける必要がある REDPIXEL.PL/SHUTTERSTOCK

<誤解や偏見、無関心で子供のワクチン接種率が低下すると、防げたはずの病気でわが子や地域が苦しむことに>

イギリス人の3歳の女の子、ローラメイが友達の誕生日パーティーに出掛けたのは1年前のこと。数日後、母親のレイチェルはその友達が麻疹(はしか)と診断されたことを知った。

「心底ぞっとした」と、レイチェルは振り返る。娘にはしかの予防接種を受けさせていなかったからだ。「深く考えていなかった。はしかなんて、めったにかかるものじゃないから」

その結果は悲惨だった。風邪のような症状の後、高熱と咳、激しい耳の痛みがローラメイを襲った。その後、体中に発疹が広がり、呼吸困難に。幸い命は助かったが、後遺症が残った。鼓膜が破れて聴覚に支障を来し、言語能力の発達に遅れが出た。

レイチェルの深い後悔の念も残った。「ほかの皆が予防接種を受けているのなら、うちはしなくてもいいと思っていた。その無頓着さのせいで大きな代償を払うことになった」

決してレイチェルの慰めにはならないが、こうしたケースは珍しくない。ヨーロッパでは近年、はしかが流行している。特に18年上半期には、感染者4万1000人以上、死者40人と猛威を振るった。アメリカでもはしかは拡大し、疾病対策センター(CDC)は18年の感染者数が349人に上ったと報告した。

ワクチンの恩恵はリスクを上回る

これらの被害のほぼ全ては、避けられたものだったのかもしれない。欧米では子供に予防接種を受けさせない反ワクチン派が多く、欧州委員会のアンカ・パドゥラルは、それこそがはしか大流行の主な原因だと言う。

WHO(世界保健機関)によれば、流行を防ぐには人口の95%がワクチンを2回接種していることが必要。しかし、接種率が70%以下という国もある。予防接種とは本来、病気の抵抗力が弱い乳幼児に免疫を付け、感染を防ぐためのもの。接種率の低さは感染拡大につながる。

イギリスでは98年、MMR(はしか、風疹、おたふくかぜ)ワクチンが自閉症を引き起こす可能性があるとの研究が発表された。後にこの論文は誤りとされ、執筆者のアンドルー・ウェイクフィールドは医師免許を剝奪されたが、MMRの接種率は一時50%にまで落ち込んだ。

ワクチン研究の権威である米フィラデルフィア小児病院感染科長のポール・オフィット博士は共著『ワクチンとあなたの子供』の中で、ワクチンを含むどんな医薬品にも副作用はあり得ると指摘する。

重要なのは、ワクチンによって副作用が生じる確率が非常に低いこと(日常生活で事故に遭う確率よりもずっと低い)。病気のダメージを考えれば「全てのワクチンの恩恵はリスクを上回る」と断言する。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米耐久財受注、8月は予想外に増加 設備投資の勢い復

ワールド

北朝鮮、越境米兵を中国へ国外追放 米国が身柄保護・

ワールド

米、イランの無人機調達網に制裁 ロシア支援と非難

ワールド

ワグネル構成員、一部が東部で戦闘 戦況に影響なし=

今、あなたにオススメ

MAGAZINE

特集:日本化する中国経済

特集:日本化する中国経済

2023年10月 3日号(9/26発売)

バブル崩壊危機/デフレ/通貨安/若者の超氷河期......。失速する中国経済が世界に不況の火種をまき散らす

メールマガジンのご登録はこちらから。

人気ランキング

  • 1

    黒海艦隊「提督」の軽過ぎた「戦死」の裏に何があったのか

  • 2

    ロシア黒海艦隊、ウクライナ無人艇の攻撃で相次ぐ被害──「大規模反攻への地ならし」と戦争研究所

  • 3

    ウクライナが手に入れた英「ストームシャドウ」ミサイルの実力は?

  • 4

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗…

  • 5

    電撃戦より「ほふく前進」を選んだウクライナ...西側…

  • 6

    最新兵器が飛び交う現代の戦場でも「恐怖」は健在...…

  • 7

    ウクライナ軍の捕虜になったロシア軍少佐...取り調べ…

  • 8

    「可愛すぎる」「飼いたくなった」飼い主を探して家…

  • 9

    「嘔吐する人もいた」アトラクションが突如故障、乗…

  • 10

    ワグネルに代わるロシア「主力部隊」の無秩序すぎる…

  • 1

    黒海艦隊「提督」の軽過ぎた「戦死」の裏に何があったのか

  • 2

    最新兵器が飛び交う現代の戦場でも「恐怖」は健在...「スナイパー」がロシア兵を撃ち倒す瞬間とされる動画

  • 3

    マイクロプラスチック摂取の悪影響、マウス実験で脳への蓄積と「異常行動」が観察される

  • 4

    これぞ「王室離脱」の結果...米NYで大歓迎された英ウ…

  • 5

    「ケイト効果」は年間1480億円以上...キャサリン妃の…

  • 6

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗…

  • 7

    J.クルーのサイトをダウンさせた...「メーガン妃ファ…

  • 8

    ロシアに裏切られたもう一つの旧ソ連国アルメニア、…

  • 9

    常識破りのイーロン・マスク、テスラ「ギガキャスト」に…

  • 10

    「クレイジーな誇張」「全然ちがう」...ヘンリーとメ…

  • 1

    イーロン・マスクからスターリンクを買収することに決めました(パックン)

  • 2

    <動画>ウクライナのために戦うアメリカ人志願兵部隊がロシア軍の塹壕に突入

  • 3

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗組員全員死亡説も

  • 4

    黒海艦隊「提督」の軽過ぎた「戦死」の裏に何があっ…

  • 5

    コンプライアンス専門家が読み解く、ジャニーズ事務…

  • 6

    「児童ポルノだ」「未成年なのに」 韓国の大人気女性…

  • 7

    サッカー女子W杯で大健闘のイングランドと、目に余る…

  • 8

    「これが現代の戦争だ」 数千ドルのドローンが、ロシ…

  • 9

    「この国の恥だ!」 インドで暴徒が女性を裸にし、街…

  • 10

    ロシア戦闘機との銃撃戦の末、黒海の戦略的な一部を…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中