最新記事

オーストラリア

コロナ封じのため国民の帰国禁止...家族に会えないオーストラリア人の嘆き

The New Hermit Kingdom

2021年5月18日(火)21時10分
アミーリア・レスター(フォーリン・ポリシー誌エグゼクティブエディター)
メルボルンの自宅待機を呼び掛ける看板を見つめる少女像

ビクトリア州は昨年、厳しいロックダウンを経験し、州都メルボルンは今年2月にも5日間実施した。(メルボルンの自宅待機を呼び掛ける看板を見つめる少女像) SANDRA SANDERSーREUTERS

<厳しい国境閉鎖で多数の帰国困難者が発生。感染は防げた一方、「多文化主義の移民大国」の名が泣く状況に>

今月発表されたオーストラリアの連邦予算案に、国外にいる多数のオーストラリア人(私もその1人だ)と国内でその帰りを待つ家族を絶望のどん底に落とす記載があった。

国境閉鎖が解除され、帰国できるようになるのは2022年半ばだ、というのである。

オーストラリアは昨年3月、WHO(世界保健機関)が新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)を宣言するや即座に国境を閉鎖。以後、おそらくは北朝鮮を除いて世界一厳しい「鎖国政策」を取ってきた。

パンデミックが始まると多くの国々が渡航制限に踏み切ったが、外国滞在中の自国民の帰国まで事実上制限したのは民主主義国家ではオーストラリアくらいのものだ。

オーストラリア外務省によると、外国で「足止め中」、つまり帰国を希望しているのに帰れないオーストラリア人は最大4万人に上る。

理由の1つはお金だ。連邦政府は国境を閉鎖するとすぐ帰国者の隔離費用(宿泊費など)は帰還先の州と特別地域が責任を持つことにすると決めた。そして多くの州や特別地域は高い費用を帰国者に負担させている。しかも、帰国者の受け入れ人数も行政により著しく制限されている。

大金持ちはプライベートジェットで帰国

帰りたくても、そもそもフライトの確保が難しい。オーストラリアを代表するカンタス航空は1990年代に民営化された。今や利益率の低い長距離便を運航している航空会社は少なく、欠航も多い。しかもエコノミークラスよりビジネスクラスや貨物が優先され、コロナ禍で航空券は3倍以上値上がりしている。

だがラックラン・マードックやニコール・キッドマンのような大金持ちのオーストラリア人はプライベートジェットで帰国し、私有地で自主隔離する許可を与えられ、マスクなしの休暇を満喫できる。

早々と国境を閉鎖し、国内でも厳しいロックダウン(都市封鎖)を実施したおかげで、オーストラリアの新型コロナの死者は累計1000人足らず。迅速に決断を下したスコット・モリソン首相の「お手柄」は認めざるを得ない。

だが鎖国とも言うべき政策はどうなのか。しかもその状況下でもマードックやキッドマンだけでなく、ナタリー・ポートマンやザック・エフロンなどハリウッドのスターたちは難なく入国できる。そしてコロナフリーのロケ地で映画の撮影をしたり、観光客のいないビーチでサーフィンを楽しんだりと羨ましい限りだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午前の日経平均は小反発、クリスマスで薄商い 値幅1

ビジネス

米当局が欠陥調査、テスラ「モデル3」の緊急ドアロッ

ワールド

米東部4州の知事、洋上風力発電事業停止の撤回求める

ワールド

24年の羽田衝突事故、運輸安全委が異例の2回目経過
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 7
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中