最新記事

デジタル資産

話題のNFT(非代替性トークン)とは? デジタル絵に75億円:その仕組みと危険性

2021年4月5日(月)18時30分
青葉やまと

75億円で落札されたBEEPLEによるデジタルアート 「EVERYDAYS: THE FIRST 5000 DAYS」 2021/BEEPLE/REUTERS

<デジタルアートが数億円で落札されるなど、NFT(非代替性トークン)をめぐる驚くべきニュースが続く。実体のないデータの高額取引を可能にするNFTとは。そのメリットとしくみ、そして危険性を読み解く>

3月10日、わずか24ピクセル四方の小さなデジタルアートが日本円にして8億円で落札され、世界を驚かせた。「クリプトパンク」と呼ばれる1万点の作品群のうち1点で、パイプをくゆらせる宇宙人が描かれている。デジタル作品なので実体はない。落札者が8億円をかけて入手したのは、いわば作品の所有権を示す、「NFT」(Non-Fungible Token ノン・ファンジブル・トークン:非代替性トークン)と呼ばれるデジタル証明だ。

翌3月11日には、別のデジタルアートが75億円で落札されている。「エブリデイズ:ザ・ファースト5000デイズ」と題された、あるアーティストの既存作品5000点をコラージュした作品だ。こちらも実体はなく、所有権だけがNFTの形で取引された。

RTXABVKU.JPGBEEPLEによるデジタルアート 「EVERYDAYS: THE FIRST 5000 DAYS」 2021/BEEPLE/REUTERS

熱狂の渦は、芸術分野に留まらない。米NBA選手のデジタル・トレーディング・カードから、クリプトキティと呼ばれる猫育成・交換ゲーム内のバーチャルの猫、そしてツイッター創業者の最初のツイートに至るまで、あらゆるものの所有権がNFTというデジタル資産として競売にかけられ、驚くべき金額で落札されている。

こうした取引は、NFTの登場以前であれば成立させることが難しかった。取引対象はデジタルのアイテムであり、簡単に複製ができてしまうからだ。例えば宇宙人のドット絵アートはネット上に公開されており、誰もが無料でダウンロードできる。8億円で買いたいとは思わないだろう。ところがNFTはこの世に一点しかない「所有権」を売買できるようにすることで、世界中の資産家たちのあいだに入手合戦を巻き起こしたのだ。

NFTが可能にした、デジタル資産の値付け

複製が容易なデジタル空間のアイテムに対し、NFTは「トークンを持っている人だけを本物の所有者とみなす」という概念を持ち込み、唯一無二の付加価値を生んだ。いわばデジタルで保証された所有証明書だ。基本的に誰でも発行することができる。

作品の所有権を売りに出したいと思ったアーティストは、マーケットプレイス(NFTのオンライン取引所)を訪れ、NFTを鋳造(発行)する。鋳造したNFTがオークションで落札されると、NFTは購入者に譲渡され、アーティストは仮想通貨の形で対価を受け取る。通常は著作権は譲渡対象外となるため、アーティストは作品を引き続き展示したり、同じ作品のコピーを販売したりしても問題ない。

したがって購入者としては、引き続き誰もが閲覧可能なアートに大金を払ったことになる。しかし、所有権を示すNFTは世界に一つしか存在せず、そこに価値を見出すことができる。NFTの譲渡履歴はブロックチェーン技術で管理されており、そのしくみ上、再譲渡は可能だが、複製は不可能だ。

こうした性質は、投資対象としての価値をNFTにもたらした。75億円で売れた「エブリデイズ:ザ・ファースト5000デイズ」の落札者は当初謎に包まれていたが、オークションハウスのクリスティーズは、世界最大規模のNFTファンドの共同創設者による落札であったと後に明かした。巨額取引の背後には、このような投機的な動きがくすぶる。

ノン・ファンジブルとは一体?

気になった方のために、ここで「ノン・ファンジブル」が意味するところを確認してみよう。ブロックチェーンが扱うものには、ファンジブルな(つまり代わりが効く)ものと、ノン・ファンジブルな(代わりが効かない)ものとがある。

ファンジブルなものの代表例は仮想通貨だ。例えば現実世界であなたが百円玉を握っていたとして、誰か別の人の百円玉と突然交換しても、別段困ることはないだろう。百円は百円だ。したがって現金は、ファンジブル(代替可能)な性質を持つと言える。ビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨も基本的には同じで、ファンジブルだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中