最新記事

デジタル資産

話題のNFT(非代替性トークン)とは? デジタル絵に75億円:その仕組みと危険性

2021年4月5日(月)18時30分
青葉やまと

一方、NFTが扱うものはその名の通り、ノン・ファンジブル(代替不可能)だ。例えばデジタルアートを購入したとして、他の作品とランダムに交換されるようなことがあっては困るだろう。ほかにも、特定の選手のトレーディング・カード、座席指定つきのコンサート・チケット、ゲーム内で育成したキャラクターなどは、どれもノン・ファンジブルだ。NFTは、このように代替不可能なアイテムの所有権を主な対象としている。

一部では会員権などにも応用されている。米フォーブス誌は2019年、誌面上のオンライン広告を非表示にできる有料会員権をNFTの形で販売した。権利が不要となった場合、第三者に売却することが可能だ。買い手にとって無駄がなく、より気軽な加入を促す効果があるとして注目を浴びた。

作品乗っ取りに無価値化...... 起き始めているリスク

新たな可能性を拓くNFTだが、危険性も指摘されている。過熱するNFTがいっときのバブルに終わるのではないかとの警戒感は根強い。米CNNは、「批評家たちはこれら(NFT)が大いに問題を抱えたものであり、弾けるのを待つバブルだと指摘している」と述べている。

さらに、信頼性を逆手に取った行為も発生している。米公共放送局のNPRは、バンクシーの作風によく似た作品のNFTが1億円で落札されたものの、他のアーティストによるフェイク作品であったという一件を取り上げている。いくらNFT自体が強固な技術で守られていても、そもそもNFTの発行者がアーティストと無関係となれば、その価値の根底が揺らぐことになる。

類似のケースとして、アートの乗っ取り被害も深刻だ。英テレグラフ紙によると、あるアーティストはTwitter上で公開している自作アートの画像を盗用され、作品の所有権を第三者によって無断で販売されてしまったという。取引所によってはNFT発行の際、製作過程の画像のアップロードを求めるなど確認を行なっているが、万全ではない。

別のリスクとしては、高額でNFTを購入したとしても、数年後には機能しなくなる可能性がある。NFTには作品自体は含まれず、作品が公開されている場所へのリンクだけが記述される。通常のウェブページにリンク切れが発生しがちなように、購入したNFTがリンク切れの状態になってしまうことは起こり得る。

こうなると、NFTを持っていたとしても、何に対する所有権だったのかを証明できるかは不透明だ。ネット上にデータを分散保持するIPFSという解決策が導入されつつあるが、米ヴァージ誌は、その上でさらにリンク切れになっている事例を複数確認したと伝えている。著名DJのスティーヴ・アオキ氏の作品など、おそらく高額で譲渡されたであろうNFTもリンク切れの状態が確認された。

とはいえ、大極的にはNFTへの期待感は大きく、用途をより広げていく動きが活発だ。現在はデジタルデータを主な対象としているが、将来的には不動産の所有権など、現実世界のモノの取引への応用も想定される。ユニソックスという実験プロジェクトでは、限定版の実物の靴下をもらう権利がNFTとして売りに出され、780万円を超える値で取引された。

いっときのバブルを越えた広がりを見せるのか、今後のNFTの動向が注目される。


People are paying millions for digital collectibles 'NFTs' - What to know about this digital asset


Beeple Explains The Absurdity Of NFTs | So Expensive

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECBの次回利下げ、9月より後になる公算=リトアニ

ワールド

トランプ氏、日本に貿易巡る書簡送付へ 「コメ不足な

ワールド

米政権がロス市提訴、ICE業務執行への協力制限策に

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック最高値更新、貿易交
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引き…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    飛行機のトイレに入った女性に、乗客みんなが「一斉…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中