最新記事

ヘルス

長寿日本一の長野県、秘訣は「適度な毒」 県民が実践する病気知らずの食事法とは

2021年2月15日(月)11時50分
古川 哲史(医学博士・東京医科歯科大学副学長) *PRESIDENT Onlineからの転載

予防医療は減塩運動から始まった

日本の死亡原因の第1位は、長年「がん」です。長野県は、今でも脳卒中による死亡率は全国でも高い方ですが、それでも最長寿県であるのは、がんによる死亡率が全国で一番低いからなのです。

では、長野県はがんに対する治療対策がよっぽど進んでいるのだろうと思われるかもしれませんが、実は長野県は、多くの都道府県が持つ「がんセンター」がない、全国でも数少ない県なのです。

一般の病院数も47都道府県中33位と平均以下です。

一方、県民のヘルスケア、病気予防を担う公民館の数は全国1位で、保健師さんの数も全国2位です。

長野県の成功の秘訣は、病気になってからの医療ではなく、病気にならないようにする、「予防医療」にあると考えられます。

今では「長野モデル」と呼ばれる長野県のこうした医療は、佐久市に立て続けに赴任した、地域医療に熱心な医師らが始めた「減塩運動」からスタートしました。

1945年に佐久総合病院に若月俊一医師が赴任、59年に佐久市の国保浅間総合病院に吉澤國雄院長が赴任し、長野県は農作業が忙しく、交通の便も悪いので、吉澤院長が公民館に出向いて「脳卒中になる理由は塩分の摂り過ぎであることを知ろう、そして予防しよう」「そのために足元の生活を見直そう」「自分で自分の健康を守る意識を持とう」と根気強く説いて回ったそうです。

その活動が、80年には長野県全体の「県民減塩運動」につながって、当時1日の塩分摂取量が15.9gだったのが、83年には11gにまで減ったそうです。

活動は、諏訪中央病院院長の鎌田實先生に引き継がれて、現在に至ります。若月先生ご自身は96歳、吉澤先生は93歳とご長命で、鎌田先生も72歳の今も現役でバリバリ活躍されており、「長野モデル」が長寿に良いことを、身をもって証明されています。

野菜の「適度な毒」が身体に良い

「長野モデル」で特に力を入れたのは、食生活の改善・充実でした。その特徴をこれからご紹介しましょう。

まず一つ目は、食事にかける時間の長さです。長野県のそれは1日平均104分と、全国第3位の長さです。これはよく噛んで食べていることを意味します。よく噛むと、食べ過ぎを予防し、肥満を抑えます。その結果、長野県は全国でも、病気のもととなる肥満の割合が少ない県の一つです。

また噛む回数が減ると、認知症も増えることが知られています。よく噛むことはその意味でも大事なのです。

二つ目は、野菜摂取量の多さです。野菜が身体によいことは常識でしょうが、どうしてなのかは専門家の間でも答えがわかれるところで、今では野菜に含まれる「適度な毒」が、ストレスへの抵抗力を強くする、という考えが主流になってきています。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

英中銀、銀行の自己資本比率要件を1%引き下げ 経済

ワールド

香港、火災調査で独立委設置へ 死者156人・30人

ビジネス

アングル:日銀「地ならし」で国債市場不安定化、入札

ワールド

EXCLUSIVE-中国のレアアース輸出、新規ライ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯終了、戦争で観光業打撃、福祉費用が削減へ
  • 3
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 4
    【クイズ】1位は北海道で圧倒的...日本で2番目に「カ…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中