最新記事

日本社会

弁護士の平均年収は4割減 過去十年で年収が上がった職業、下がった職業

2021年2月24日(水)14時00分
舞田敏彦(教育社会学者)

この10年で年収が下がった職業ランキングでは士業が首位を独占した kazuma seki/iStock.

<弁護士などいわゆる「士業」の年収の落ち込みが激しいのは、政策による弁護士の増加と都市部への集中が要因>

社会は、成員が一定の役割を果たすことで成り立っている。具体的に言うと、職業に就いて仕事をすることだ。

戦後初期の頃までは人口の大半が一次産業に従事していたが、その後の社会の高度化によって産業構造が変わり、職業の数も増えている。2015年の『国勢調査』の職業小分類では232ものカテゴリーがあり、もっと細かく分ければ数千にも及ぶと言われている。高度化した社会を維持するには、各人の持ち味を生かした分業が要となる。

職業はその重要度、遂行の困難さ、また当該職業に就くのに要する金銭的・時間的コスト等に基づいて、収入に傾斜がつけられている。給料が高い仕事もあれば、そうでない仕事もある。社会にとってどうでもいい仕事の給料が高く、必要不可欠なエッセンシャルワークの給料が低いという理不尽な現実もあるが、それは今は置いておく。

職業別の収入はいくつかの官庁統計で明らかにできるが、最も細かい職業分類のデータは厚労省『賃金構造基本統計』で得られる。10人以上の事業所に勤める一般労働者の月収、年間賞与額を129の職業別に知ることができる。年収を出す場合、月収の12倍に年間賞与額を足せばいい。

ここでの主眼は、各職業の年収がこの10年ほどでどう変わったかだ。これを見ると、どういう職業への需要が増しているかうかがい知ることができる。129の職業の年収を2010年と2019年について出し、後者が前者の何倍かという倍率の順に並べたランキング表を作った。全ては提示できないが、上位15位と下位15位を示すと<表1>のようになる。過去10年間での年収の増え幅(減り幅)が大きい職業だ。

data210224-chart01.png

上段を見ると、この10年ほどの伸び率の首位はパイロットで、1136万円から1695万円へと1.5倍に増えている。ただでさえ高収入の職業だが、近年の伸びも大きく他を引き離している。だが昨年(2020年)は新型コロナの影響で航空業界が打撃を受けているので、落ち込んでいるかもしれない。

全体的に見て、現業系の仕事の給料が上がっているように見える。建築や解体の需要の高まりで、これらの仕事の職人が重宝されるようになっているのだろう。高齢者の足としてのニーズが増しているのか、タクシー運転手の給料も増えている。出版不況の時代だが、記者の稼ぎも増えている。にわかには信じがたいが、弱小出版社が淘汰され、大手だけが生き残っているためかもしれない。

増えすぎた弁護士

次に下段だ。増加率が1.0未満、つまりこの10年ほどで稼ぎが減っている職業だ。大学経営が厳しさを増しているためか、大学教授と講師の年収はやや下がっている。ここでは示さないが規模別の差もあって、従業員が少ない小規模大学ほど教授の年収の減少率は高い。大学格差も進行しているようだ。今やコンビニより多いと言われる歯科医師も、需要以上の量産のツケか年収が減っている。

注目は一番下で、10年間の年収の減少率が最も大きい3つの職業は見事に「士業」で占められている。公認会計士、社会保険労務士、そして弁護士だ。弁護士は1271万円から729万円と4割以上の減だ。背景には、弁護士が増えすぎていることがあるだろう。2002年に「法曹3000人計画」が策定された。毎年3000人程度の法曹を新たに確保しようというもので、これにより弁護士をはじめとした法曹が増え始め、就職難が起きているという。

弁護士の数のグラフを見ると、2002年以後、増加の速度が上がっている(日弁連ホームページの統計)。先ほど2010年と2019年の年収比較をしたのだが、この期間にかけて弁護士は2万8789人から4万1118人と1.5倍に増えている。こうした量的変化が稼ぎに影響していることは想像に容易い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハマスが停戦違反と非難、ネタニヤフ首相 報復表明

ビジネス

ナイキ株5%高、アップルCEOが約300万ドル相当

ワールド

ゼレンスキー氏、和平案巡りトランプ氏との会談求める

ワールド

タイ・カンボジア両軍、停戦へ向け協議開始 27日に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 8
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 9
    【投資信託】オルカンだけでいいの? 2025年の人気ラ…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中