最新記事

歴史

硫黄島記念碑の星条旗にアメリカ人が見いだす真の意味

Monumental Perceptions

2021年1月4日(月)13時30分
キース・ロウ(イギリス人歴史家)

とはいえ、アメリカ人の多くが硫黄島記念碑に抱く敬意は、報復と断固たる決意の表現が理由ではない。明らかに、別の何かが作用している。

この点を理解するには、後方の人物像に目を向けなければならない。彼らは、あたかも天に手を伸ばしているかのようだ。その頭上には星条旗が翻る。

最後方の兵士は旗ざおをつかもうとしているが、手が届きそうで届かない。その姿は、バチカンのシスティナ礼拝堂にあるミケランジェロの有名なフレスコ画『アダムの創造』で、神に向かって腕を伸ばすアダムを連想させる。

彼らは「手にできないかもしれないものを必死に探り、天の力に助けを求めて」いると、記念碑を手掛けた彫刻家フェリックス・ド・ウェルドンは、1954年に行われた除幕式で語った。「逆境の中では誰もがその力を必要とし、その導きなしでは私たちの努力は実を結ばないだろう」

そうした神の導きを象徴するのが、頭上の星条旗だ。

magw210104-pic02.jpg

自身の作品を持つ故ローゼンタール(2000年) DAVID HUME KENNERLY/GETTY IMAGES

イラクで掲げた星条旗

言い換えれば、硫黄島記念碑の真のテーマは米海兵隊でも日本軍に対する勝利でもなく、第2次大戦とも関係がない。真の意味を付与するのは星条旗だ。アメリカで硫黄島記念碑が熱烈に愛されている本当の理由は、神と国家の融合体という側面を持つ星条旗というシンボルにある。

第2次大戦の記憶の解釈をめぐって欧米間に大きな隔たりがあるなら、これこそが核心にある問題の1つだ。

両者はそれぞれ、第2次大戦から全く異なる教訓を学んだ。大戦に先立つ30年代、ヨーロッパは愛国心の誇示がはらむ危険に全面的にさらされた。その後に吹き荒れた暴力の時代に、熱狂的なナショナリズムが制御を失ったらどうなるかを身をもって体験した。

結果的に、国旗は極めて慎重に扱うべき象徴になっている。戦後のポスト植民地時代の欧州では、国旗に対して過剰な情熱を示せば、懐疑の目で見られるのが普通だ。外国の領土に国旗を打ち立てる行為を賛美する記念碑など、まず考えられない。

対照的に、アメリカでは裁判所や学校や政府機関、公園、住宅の敷地、車、衣服と至る所に国旗があふれている。NFL(全米プロフットボールリーグ)の試合前には国旗への賛歌にほかならない国歌「星条旗」が斉唱され、子供たちは学校で国旗に対する忠誠の誓いを暗唱する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

NY市長選でマムダニ氏勝利予測、34歳の民主候補 

ビジネス

利上げの条件そろいつつあるが、米経済下振れに警戒感

ビジネス

仏検察、中国系オンライン通販各社を捜査 性玩具販売

ワールド

ロシア石油大手ルクオイル、西側の制裁で海外事業に支
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中