最新記事

年金

2020年年金改革の全体像と次期改革の展望

2021年1月21日(木)18時20分
中嶋 邦夫(ニッセイ基礎研究所)

「老後に基礎年金しか受け取れないから自営業は大変」と言われるが、会社員も人ごとではない banabana-san-iStock

<年金の仕組みは複雑だが、給付水準が減らされていく時代だけに中身のチェックが必要だ。たとえば、給与が少なかった人ほど年金カット率が大きくなる不公平の是正も今後の課題だ>

*この記事は、ニッセイ基礎研究所レポート(2021年1月19日付)からの転載です。

2020年改革の背景

公的年金制度は、2004年の改革で基本的な仕組みが大きく変わった。2004年の改革以前は、大まかに言えば、少子化や長寿化の進展にあわせて将来の保険料を引き上げ、年金財政をバランスさせる仕組みだった1。しかし、2002年に公表された試算では、当時の給付水準を維持するには厚生年金の将来の保険料を当時の2倍近い水準(労使合計で年間給与の23.1%)へ引き上げる必要がある、という結果になった(図表1)。

そこで、2004年の改革では、将来の企業や現役世代の負担を考慮して保険料(率)の引上げを2017年に停止し2、その代わりに将来の給付水準を段階的に引き下げて年金財政のバランスを取ることになった。この給付水準を引き下げる仕組みが、「マクロ経済スライド」と呼ばれるものである。この仕組みは年金財政が健全化するまで続くが、年金財政がいつ健全化するかは人口や経済の状況によって変わる。

Nissei_nenkin2020_1.jpg

2019年8月に公表された将来見通し(財政検証の結果)を大まかに整理したのが図表2である。女性や高齢者の就労が進むなど政府の計画通りに経済が成長し、かつ出生率が低下しない場合には、厚生年金(2階部分)では2018~25年度に、基礎年金(1階部分)では2042~47年度に、給付調整を停止できる見通しとなった。その結果、給付水準は、厚生年金(2階部分)が2019年度と比べて0~3%、基礎年金(1階部分)が同じく22~28%、段階的に低下する見込みとなった。他方、経済が低迷した場合や出生率が低下した場合には給付調整が長引き、厚生年金(2階部分)が4~16%、基礎年金(1階部分)が32~49%、低下する見込みとなった。

Nissei_nenkin2020_2.jpg

────────────────
1 2004年改革までの大まかな流れは、マネックス証券へ寄稿した拙稿「公的年金のタテ(年金財政や世代間バランス)の問題」、および関連する「年金制度と年金問題を、ざっくりと整理」「公的年金のヨコ(世代内のバランス)の問題」を参照。
2 厚生年金の保険料率は18.3%で固定された。国民年金の保険料(額)は2017年度に実質的な引き上げが停止され、以降は賃金上昇率に応じた改定のみが行われている。この改定は、厚生年金において保険料率が固定されても賃金の変動に応じて保険料の金額が変動することに相当する仕組みと言える。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

エヌビディア決算に注目、AI業界の試金石に=今週の

ビジネス

FRB、9月利下げ判断にさらなるデータ必要=セント

ワールド

米、シカゴへ州兵数千人9月動員も 国防総省が計画策

ワールド

ロシア・クルスク原発で一時火災、ウクライナ無人機攻
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋肉は「神経の従者」だった
  • 2
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 3
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」の正体...医師が回答した「人獣共通感染症」とは
  • 4
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 5
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 6
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    株価12倍の大勝利...「祖父の七光り」ではなかった、…
  • 9
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 10
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 6
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 7
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 8
    「このクマ、絶対爆笑してる」水槽の前に立つ女の子…
  • 9
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 10
    3本足の「親友」を優しく見守る姿が泣ける!ラブラ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中