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2020年年金改革の全体像と次期改革の展望

2021年1月21日(木)18時20分
中嶋 邦夫(ニッセイ基礎研究所)

このように、今後の給付水準は厚生年金よりも基礎年金で実質的な目減りが大きくなる見込みとなった。この図を見た方から「自営業の人は老後に基礎年金しか受け取れないから大変」という声を聞くことがあるが、問題は自営業の方にとどまらない。会社員や公務員の経験者が受け取る年金のうち、基礎年金(1階部分)は基本的に定額だが、厚生年金は基本的に現役時代の給与や賞与が多いほど年金額も多くなる仕組みである。そのため、現役時代の給与が少ないほど受け取れる厚生年金が少なく、年金全体に占める基礎年金の割合が大きくなる。これと、図表2で見た基礎年金の低下率がより大きい点を合わせて考えれば、割合が大きい部分の低下率が大きいため、現役時代に給与が少ないほど年金全体の低下率が大きくなる(図表3)。

Nissei_nenkin2020_3.jpg

この傾向は、2009年に公表された将来見通しから示されていた。政府は制度改正を順次実施してきており(図表4)、今回の改正もその延長線上にある。

Nissei_nenkin2020_4.jpg

2020年改革の概要

今回の改正内容は、(1)厚生年金の適用拡大、(2)高齢期就労の阻害防止、(3)確定拠出年金等の規制緩和、の3つに大きく整理できる(図表5)。

Nissei_nenkin2020_5.jpg

まず、(1)厚生年金の適用拡大は、厚生年金の加入対象をパート労働者等にも拡大し、老後に厚生年金を受給できるようにする取り組みである。2000年代の初頭から議論されてきたが、基礎年金の大幅な水準低下の見通しを受けて、その重要性が高まっている。今回は、これまでの短時間(パート)労働者の適用拡大に加え、1953年以来となる適用業種の見直しが盛り込まれた。

次に、(2)高齢期就労の阻害防止も長年の課題である。特に現在は、就労を延長して年金の受給開始を繰り下げることが、給付水準の低下を補う対策として注目されている。今回の改正には、繰下げ受給の柔軟化や高齢期に就労した場合の年金を充実する見直しが盛り込まれた。

また、公的年金の水準が低下していくため、今後は私的年金(企業年金や個人年金)が重要になる。これは、2019年に話題になった老後資金2000万円問題の火種となった報告書のテーマでもある。しかし現実には、中小企業を中心に企業年金の実施率が低下している。そこで、企業年金の実施率の向上や個人での自助努力を支援するための見直しとして、(3)確定拠出年金等の規制緩和が盛り込まれた。

次期改革の展望

前述したいずれの改正も課題解決に向けて一歩前進する内容だが、さらに改善すべき点も残されている。

前回(2016年)の改革過程から、5年に1度行われる将来見通しの作成(財政検証)に合わせて、制度改正の議論に資するための試算(オプション試算)が示されるようになり、これを基礎として法案化に向けた議論が進められてきた。しかし、オプション試算の項目はあくまで選択肢(車を購入する際のオプションと同様の意味)であり、オプション試算に盛り込まれた項目が必ず制度改正に盛り込まれるわけではない。逆に、オプション試算に盛り込まれていなかった項目が、制度改正に盛り込まれる場合もある。

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