最新記事

香港

中国の締め付け強化で自由を失う香港 引き裂かれる家族と社会の絆

2020年12月31日(木)09時34分

移住先として香港市民に人気があるのは、英国以外ではカナダとオーストラリアだ。移住斡旋事業者や引っ越し事業者によれば、両国とも国家安全法の施行を受けて、香港市民に対するビザ発給条件を緩和したという。

カナダの移民当局によると、香港市民によるカナダのビザ申請件数は昨年10%以上も急増し、8640件に達した。2020年1─9月の数値に基づいてロイターが試算したところ、今年はほぼ25%を超す増加率になりそうな勢いだ。一方、オーストラリア政府は7月、香港出身者による市民権取得に関して新たな規則を発表し、オーストラリア国内の香港パスポート保有者2500人以上についてビザの有効期限が延長された。

香港住民の海外への大量脱出は過去にも例がある。香港行政府の推定では、1987年から1996年にかけて香港を離れたのは約50万3800人。ピークの1992年には、その年だけで6万6000人以上にのぼった。1989年、天安門広場における民主化運動の鎮圧という流血の惨事の衝撃がなお続いていた時期だ。

今回の香港脱出の規模は、1997年の返還に至る10年間に生じた香港からの大量脱出に匹敵しかねない。その影響について、カナダのブリティッシュコロンビア大学で香港研究イニシアチブを主宰するレオ・シン准教授は、仮に数万人ないし数十万人の中産階級が香港を離れることになれば、「明らかに、専門的な能力と地元に関する知識が大きく失われることになる」と危惧する。

「ミクロレベルでは、ソーシャルメディアその他のテクノロジーが利用できるとはいえ、家族や社会の絆が避けがたい打撃を被るだろう」

若者の将来が見えない

昨年6月の大規模デモ行進に家族とともに参加したとき、アサさん、ウィリーさん夫妻は、中国統治下の香港が、民主主義の拡大に向けて歴史的な変化を遂げようとしているという希望を抱いていた。

だが当局は強硬姿勢を崩さず、デモはますます暴力的になっていった。ライ家にとって、市街の混乱と政府の反応は、香港が期待とは逆の方向に向かっているように感じられた。

「これはもう我慢できない、もうここには住みたくないと思った」とアサさんは言う。「多くの市民が声を上げているのに、政府はそれに応えようとしない。時間が経つにつれて、ニュースはますます憂鬱なものになっていった」

そして、抗議の声をあげた若者たちへの思いも強まった。「あの子たちは私自身の子どもではないとはいえ、香港の若者たちにとって将来への道が見えないというのは――」とアサさんは言いかけ、そのまま嗚咽した。

夫のウィリーさんが後を引き取った。「若い世代が声を上げることを恐れるようになれば、ここは彼らにとってふさわしい場所ではなくなる。この時点で私にできることは、自分の子どもたちを守り、彼女たちをもっと適切な環境で育てることだ」

昨年8月までに夫妻の心は決まっていた。3人の娘、12歳のユーニスさん、11歳のキャリスさん、1歳のヤニスちゃんに、自分たちが育ってきたときに感じていた自由を味わうチャンスを与えるためには、香港を離れなければならない。

それは「ひどく大変な」決心だった、とアサさんは言う。2人とも安定した仕事があった。アサさんは23年間看護師として働き、最近ではがん患者支援団体に勤めていた。子どもの頃、飛行機が着陸するのを見たくて香港の丘の上に登っていたウィリーさんは、今では航空機整備会社で航空機部品の輸出入を担当する恵まれた仕事に就いている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

連合、春闘賃上げ要求は平均5.94% 着地も高水準

ビジネス

モルガンS、今年のECB利下げ予想撤回 中東危機で

ワールド

イラン、イスラエルに大規模ミサイル攻撃 応酬は6日

ワールド

中国、GDP単位当たり二酸化炭素排出量の削減加速へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 2
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られる」衝撃映像にネット騒然
  • 3
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 4
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 5
    「外国人が増え、犯罪は減った」という現実もあるの…
  • 6
    「イランはどこ?」2000人のアメリカ人が指差した場…
  • 7
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 8
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 9
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 10
    「え、履いてない?」モルディブ行きの飛行機で撮影…
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 3
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 4
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの…
  • 7
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 8
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 9
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 10
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中