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中国の締め付け強化で自由を失う香港 引き裂かれる家族と社会の絆

2020年12月31日(木)09時34分

彼らは両親や友人、教会の仲間を後に残していくことになる。夫妻も子どもたちも英語が流暢というわけではない。彼らはユーチューブの英語教育チャンネル「イングリッシュ・アンド・ルーシー」を見て、発音からアクセントまで学んでいる。英国で最も融通の利かないアクセントで知られる街の1つであるグラスゴーに向かう家族にとっては良い教材だ。

毎年クリスマスには、ライ家とアサさんの幼なじみのアデリンさん、フローレンスさん、イブさんの家族が大集合してディナーを食べる。

今年のホストはアデリンさんだった。移住するライ家の引っ越しに合わせて3週間前倒しになったにも関わらず、自宅はクリスマス一色だった。リビングの角には大きなクリスマスツリーが飾られ、LEDのモニターには暖炉の火の映像が流れ、BGMでクリスマスキャロルが流れていた。

アサさんは既に移住している友人から送られてきた画像を見せながら、「グラスゴーでは雪が降っている!とても美しい」とおしゃべりをした。香港では、夜の気温が初めて20度を下回った週末だった。

友人のアデリンさんが取り出したケーキには、「一家の新しい、より良い人生を願って」とチョコレートで書かれており、アサさんには幼なじみがそろって写っている過去7年の写真が入ったカードが渡された。アサさんの目に涙がたまった。

「実は私たちからも渡したいものがある」とアサさんは言いながら、3つの黒い箱を出した。中には、中国語の繁体字で「コリント人への手紙 13:7」が彫られたお守りが入っていた。

「すべてを忍び、すべてを信じ、すべてを望み、すべてを耐える」

どこにたどり着くのか

三世代で過ごす最後の中秋節の夜、アサさんは父親にスコッチウイスキー「キングロバート」のボトルを贈った。「気に入って、もっと飲みたくなったら、スコットランドに来ないとね」

手を取り合い、炒め物や汁物、蒸したアラなどの料理が盛られた夕食の席に着き、アサさんは食前の祈りを唱える。

「香港を離れようとする今、私たちがどこにたどり着くのか分かりません。それでも、主が私たちを導き、慈しんでくださることを信じます。主に感謝します。アーメン」

グラスを掲げて家族で乾杯した後に沈黙が訪れた。それを破ろうと、アサさんは娘たちに言葉をかける。「おばあちゃんの醤油鶏はとても美味しいでしょう。食べられなくなるのは残念だね」

だが母親のエイダさんは視線をそらし、急いで話題を変え、食品の値上がりを口にした。


Pak Yiu Marius Zaharia(翻訳:エァクレーレン)

[ロイター]


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