最新記事

動物

サルの社会から学ぶ、他者との向き合い方

2020年12月22日(火)17時20分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

ビジュに学ぶ、モテのヒント

イギリスのハウレッツ野生動物公園から、上野動物園にゴリラのビジュ(オス)がやってきた。群れ育ちで繁殖経験もある10歳の若者だ。飼育下でゴリラを繁殖することは世界的な課題だった。ビジュに対する期待も高まったと黒鳥氏は言っている。

ビジュに対する期待はメスのゴリラたちも同じだったようだ。自信に満ち、堂々としているビジュの様子を見るメスたちの目が、明らかに今までのオスに対するものとは違ったという。

最初は、リラコ(メス)、ゲンキ(メス)、ビジュの3頭で同居となった。しかし、リラコがケガをしたため、ゲンキとビジュの2頭だけで暮らすことに。その間に2頭は急接近をし、交尾に至ったのだ。その後も毎月、ゲンキが発情するたびに交尾をする。発情中のゲンキはビジュにべったりで、ビジュが休んでいても、気を引くために腕を引っ張り、砂をかけるなどして起こしてしまうほどだったという。やがて、リラコが復帰し、ローラ(メス)も加わった。しかし、なかなか赤ちゃんはできなかった。

そこに加わったのが、別の動物園から来たモモコ(メス)である。来たばかりなのに先輩のメスたちにもまったく物怖じしないモモコの行動に、黒鳥氏はとても心配したという。

しかし、黒鳥氏の心配をよそに、モモコは、群れに入ってたったの2日で、ビジュと交尾をしたのだ。

そんな新入りのモモコの態度が面白くないのが、メスの序列1位だったリラコである。モモコとビジュの交尾がはじまると、リラコは間に入ったり、モモコの足を引っ張ったりして邪魔してしまう。しかし、当のモモコは、全く意に介さずに、交尾を続ける。

ビジュはというと、モモコの発情が終わると、今度はリラコと積極的に交尾をするのだ。メス同士が修羅場になっても、群れがバラバラにならなかったのは、ビジュの力だったと黒鳥氏は言っている。

臆病なトト(メス)が群れに加わったときも、ビジュの力が際立った。なかなか放飼場に出てこないトトに草をプレゼントし、じっと外で待ってやさしく誘い出していたのだ。ビジュはトトとも交尾し、トトも群れのなかに安心していられるようになった。

黒鳥氏によると、群れを率いるオスゴリラに必要なのは、マメさだという。メスたちにトラブルが起きたとき、すぐに間に入って落ち着かせる技術や、どのメスも平等に扱う態度により、オスはメスたちの信頼を得ることができるのだ。リーダーは力を振りかざすだけでなく、調整する能力が大事なのである。

言葉がないから、わかり合える

時にはゴリラは嘘をつく。

寒い冬の雨の日に、 外に出る時間になったら、ローラが急に頭を抱え「ウーッ」と苦しそうにしたという。調子が悪いのかと思い、外に出さずに見えない隣室のモニターで 様子を見ていると、何もなかったように部屋の中で遊んでいる。そこで、また外に出そうとすると、苦しそうに仮病を使ったそうだ。

その一方で、ゴリラと飼育員の関係性は、病気やケガの治療で試めされると黒鳥氏は言っている。飼育員は、薬を飲ませたり、採血や麻酔をかけたりとゴリラたちが嫌がることをしなければいけないからだ。

麻酔をかけるときは、絶食をさせて吹き矢で麻酔を打つことになる。吹き矢を当てられると「痛いからもう止めてくれ」と言わんばかりに、吹き矢を返しに来るゴリラやチンパンジーもいるという。信頼しているからこそのリアクションだと黒鳥氏は言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ロ首脳会談の実現に暗雲、ロの強硬姿勢が交渉の足か

ワールド

カナダ首相、鉄鋼・アルミ貿易巡る対米協議の行方に慎

ビジネス

アングル:難しさ増すFRBの政策判断、政府閉鎖によ

ビジネス

米国株式市場=まちまち、堅調な決算受けダウは200
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない「パイオニア精神」
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    米軍、B-1B爆撃機4機を日本に展開──中国・ロシア・北…
  • 6
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 7
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 8
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 9
    増える熟年離婚、「浮気や金銭トラブルが原因」では…
  • 10
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレクトとは何か? 多い地域はどこか?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中