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選挙無効からレイプ名誉棄損まで、トランプに保守派がノーを突き付ける

How the Courts Thwarted Donald Trump

2020年12月15日(火)14時35分
スティーブ・フリース(ジャーナリスト)

2016年の大統領選を控え、数十人の保守派の法学者が連名で、トランプの法意識の低さを憂え、大統領にふさわしい候補者ではないとする共同書簡を発表した。マレックもこれに署名した1人だ。

彼らの懸念は的中し、トランプは権限逸脱を繰り返し、裁判所を保守の牙城に変えようとした。12月初めの時点で判事に指名し、議会の承認を勝ち取ったのは229人。1年の平均は約57人となり、前任者のバラク・オバマとジョージ・W・ブッシュ(いずれも平均約41人)を大幅に上回る。トランプより指名数が多いのは、やはり1期だけで退陣したジミー・カーター(年平均65人余り)のみだ。

だが保守派の判事が多数となった連邦最高裁ですら、驚くほど多くの事例でトランプの期待を裏切ってきた。トランプがいわゆる「ドリーマー」(幼少時に親と共に入国した不法移民)に対する救済措置を大統領令で廃止しようとすると、連邦最高裁は5対4でこの命令を違法と判断した。連邦最高裁はまた、国勢調査に市民権についての質問を加えるトランプ案も5対4で葬り去った。政府は「重要な決定を正当化できる」まともな説明ができず、その主張は信頼性に欠けたと、保守派とされるジョン・ロバーツ最高裁首席判事は評決に至った理由を述べている。

2017年にトランプに指名されたニール・ゴーサッチ連邦最高裁判事さえ、常に大統領に従うわけではない。2020年6月に最高裁は、LGBTQ(同性愛者など性的少数者)の従業員も1964年に制定された公民権法の下で雇用差別から守られるとする判決を、賛成6、反対3で下した。ゴーサッチは政権の主張と対立する多数意見を書いた。

その1カ月後には、トランプが刑事訴訟手続きで納税など財務記録の提出を拒否していることについて、大統領であるという理由で免責はされないと判断した。賛成した7人の判事の中には、ゴーサッチと、トランプが指名した2人目の最高裁判事ブレット・キャバノーもいた。

「わが国の政府のシステムでは、この法廷が繰り返し述べてきたように、誰も法の上に立つことはない」と、キャバノーは書いている。「この原則は、もちろん、大統領にも適用される」

「保守的な裁判所をつくろうという試みを見てきて、最高裁がトランプに過度に気配りするのではないかと懸念していた」と、2016 年の共同書簡に署名した弁護士のペジュマン・ユセフザディは言う。

この2カ月、裁判所は立て続けにトランプを否定している。彼の陣営が大統領選の結果を覆そうとする数十件の訴訟を全米の判事が政治的な立場を超えて却下しているのだ。

投票日前日の11月2日、テキサス州ハリス郡で実施されたドライブスルー方式の期日前投票をめぐり、約12万7000票が司法の判断を待っていた。ジョージ・W・ブッシュに任命されたテキサス州連邦地裁のアンドルー・ヘーネン判事は、票の無効化を求める共和党側の訴えを退けた。その前日には判事全員が共和党系である同州最高裁が、同様の判断を示している。

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