最新記事

米司法

選挙無効からレイプ名誉棄損まで、トランプに保守派がノーを突き付ける

How the Courts Thwarted Donald Trump

2020年12月15日(火)14時35分
スティーブ・フリース(ジャーナリスト)

magw201215_Trump2.jpg

ゴーサッチ(左)やキャバノーら保守派もトランプの言いなりではない JONATHAN ERNST-REUTERS

11月23日には民主党系が多数を占めるペンシルベニア州最高裁が、約8000票を無効にしようとしたトランプ陣営の訴訟を1日に5件、棄却。大統領が政権移行プロセスの開始を許可するきっかけにもなったとみられる。

その2日前にペンシルベニア州の連邦地裁は、同州の郵便投票数百万票分を無効にするよう求めたトランプ陣営の訴訟を棄却した。2012年にオバマに任命された共和党員のマシュー・ブラン判事は、投票に不正が蔓延しているという主張は「価値のない推測による非難に基づく不自然な法的主張」で「証拠による裏付けがない」と述べている。

11月27日、ペンシルベニア州の連邦控訴裁は、選挙結果を確定させないように求めたトランプ陣営の訴訟を却下した。トランプに指名されたステファノス・ビバス判事は、不正の告発には「具体的な申し立てと証拠が必要だが、いずれもない」と指摘した。

看板政策を支持する判決

ただし、大統領選の前には、投票プロセスなどいくつかの重要な問題について、裁判所がトランプに大きな勝利をもたらしている。

例えば連邦最高裁は、ウィスコンシン州について、郵便投票の有効期限延長を認めなかった。アラバマ州とテキサス州についても、不在者投票の手続きの簡素化を認めた下級裁判所の決定を差し止めた。

ほかにもいくつかの裁判で、最高裁はトランプに追い風となる判断を出している。メキシコとの「国境の壁」の建設をめぐり、連邦議会が予算を承認しなかったためにトランプが国防予算を流用することを認めた。トランプの財務記録については、下院の調査委員会への開示は一時差し止めとした。イスラム圏の特定の国からの入国規制措置を支持する判決も下している。

法律の専門家がトランプの就任時に危惧したような憲法の危機は、現実には起きていない。しかし、公職の地位を利用して個人的に利益を得ることを禁じている憲法の「報酬条項」にトランプが違反しているとする複数の訴訟で、裁判所が迅速に動かないことに、カリフォルニア大学バークレー校法科大学院のアーウィン・チェメリンスキー学長は警鐘を鳴らし続ける。

チェメリンスキーは市民団体「ワシントンの責任と倫理のための市民(CREW)」の法律チームの1人として、2017年1月の大統領就任式の3日後にトランプを提訴。現在、連邦最高裁で係争中だ。

トランプの訴えはマレックの予想した以上に退けられており、トランプ本人も意外だったはずだという。トランプは2016 年の大統領選期間中、キリスト教福音派の聴衆に「私の判事なら、どんな判断を下すか分かっている」と語った。

トランプは就任後も同様の発言を繰り返し、オバマが指名した連邦判事を政略的と批判した。2018年には政府の難民政策を却下した連邦地裁判事を「オバマ判事」と揶揄。これに対し、最高裁首席判事のロバーツは次のように反論した。「ここにはオバマ判事もトランプ判事もブッシュ判事もクリントン判事もいない。ここにいるのは法廷に現れた人々に平等な権利を遂行するため最善を尽くしている献身的な判事の非凡な集団だ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA

ビジネス

根強いインフレ、金融安定への主要リスク=FRB半期
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 6

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 7

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中