最新記事

米司法

選挙無効からレイプ名誉棄損まで、トランプに保守派がノーを突き付ける

How the Courts Thwarted Donald Trump

2020年12月15日(火)14時35分
スティーブ・フリース(ジャーナリスト)

magw201215_Trump3.jpg

トランプ陣営はペンシルベニア州で大量の票を無効にするよう求めたが JEFF SWENSEN/GETTY IMAGES

大統領選関連の訴訟で、ビバス以外にもトランプの指名した判事がトランプ側の訴えを退けている。11月19日にはジョージア州のスティーブン・グリムバーグ連邦地裁判事(2019年にトランプが指名)が、選挙結果認定停止を求めたトランプ陣営の訴えを「確定済みの選挙結果を覆すことは前例がなく、さまざまな悪影響をもたらすだろう」として退けた。

「そのことは三権分立がいかに強固かを浮き彫りにする」とマレックは言う。

政治的配慮はあり得ない

ニューヨーク大学法科大学院のリチャード・エプステイン教授によれば、実際に判事の人選をしたのは司法システム内に保守派の法律家を増やすことを目指すシンクタンク、フェデラリスト協会だ。同協会が推薦する候補者をリストアップしていたという。

リストに掲載された候補者は「先入観にとらわれない知的誠実さを持ち、裁判官としての権力の行使を抑制し、私有財産権を重んじ、三権分立を守るべく全力を尽くす人々だった。彼らが政治的配慮をすると思うのは幻想だ。あり得ない」。

もう1つトランプの思惑が外れたのは、政敵のオバマやヒラリー・クリントン、バイデンの息子が司法省に訴追されていないことだ。これも司法の力によるところが大きいと弁護士のユセフザディは指摘する。「トランプ派が彼らを『投獄しろ』と連呼しても実現しないのは、司法省内に『これはおかしい、話にならない』と言える人々がいて、司法長官でさえ行き過ぎだと認識しているからだ」

皮肉にも、トランプの指名した保守派判事が結局は大統領の権限に歯止めをかけることになるだろう。

過去数十年、議会の膠着状態が続くなか、大統領が大統領令や政府機関が発した規則を政策立案に利用しようとするケースが増えている。2016年の共同書簡に署名したネブラスカ大学のガス・ハーウィッツ准教授(法律学)は、トランプが指名した判事たちが先頭に立って、そんな流れを覆そうとするはずだと考えている。彼ら保守派の判事は合衆国憲法を起草当初どおりに解釈し、三権分立の概念を特に重んじるからだ。

エプステインはトランプをめぐる懸念はどれも大げさだとみる。「ドナルド・トランプが裁判所命令に逆らったことがあっただろうか。答えはノーだ。独裁的で知的とは言い切れない面があるのは確かで、裁判で勝ったこともあれば負けたこともあるが、私の見る限り、口は悪いが実際の振る舞いははるかにましだ」

それでもユセフザディはトランプの下で司法制度がダメージを受けたことへの懸念を拭い切れずにいる。トランプは、自分ではフルに利用するだけの才覚がなかったにしても、未来の独裁者候補に法の抜け穴と弱点を示した。

「将来、たとえ司法省が大統領の意思に完全に屈しても、法廷は最後のとりでであり続けると思いたい」とユセフザディは言う。「だが過去4年間にいかに多くの規範が棚上げされてきたことか。それも、どちらかといえば無能な大統領によってだ。トランプよりはるかに一貫性を持って衝動的でない意思決定をする大統領が現れ、アメリカの司法制度を作り替え、攻撃したらと思うとぞっとする」

<2020年12月22日号掲載>

ニューズウィーク日本版 トランプvsイラン
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月8日号(7月1日発売)は「トランプvsイラン」特集。「平和主義者」の大統領がなぜ? イラン核施設への攻撃で中東と世界はこう変わる

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相、来週訪米 トランプ氏とガザ・イラン

ビジネス

1.20ドルまでのユーロ高見過ごせる、それ以上は複

ビジネス

関税とユーロ高、「10%」が輸出への影響の目安=ラ

ビジネス

アングル:アフリカに賭ける中国自動車メーカー、欧米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    飛行機のトイレに入った女性に、乗客みんなが「一斉…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 6
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 9
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 10
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中