最新記事

医療

効果上がるアメリカのリモート診療 コロナ禍による規制緩和が活用後押し

2020年9月23日(水)19時58分

警戒すべき事例も

遠隔医療テクノロジーの利用が増加するにつれて、患者の安全性を重視する人々は、病院に対して安易な近道を選ばないよう警告している。訓練を積んだプロがベッドサイドにいれば命を脅かす合併症に対して素早く対応できるが、その代役はカメラやコンピューターには演じられないというのが彼らの主張だ。

患者の安全性を監視するNPOであるリープフロッグ・グループは、救命医療の資格を持つ医師が毎日ICU患者を1人1人直接チェックしてから、遠隔医療のスタッフに監視を委ねることを勧告している。同グループは、遠隔診療の医師が現場のスタッフからの要請に5分以内に対応し、患者の状態を評価できないようであれば、担当する患者数を減らすべきだと述べている。

ロサンジェルスの映像作家スティーブ・バロウズ氏は、遠隔医療にまだ懐疑的だ。

同氏の母親は、ウィスコンシン州の病院で、2009年に受けた腰の手術の際に複数の合併症を起こし、手術室とICUにおいて恒久的な脳損傷を負ったという。

バロウズ氏によれば、この件の訴訟を通じて、1人の医師が150人以上のICU患者をリモートで監視していたこと、そして母親の血圧が低下したときに対応できる医師がICUにいなかったことを知った。バロウズ氏は2018年、母親の事件をテーマに『ブリード・アウト(出血)』と題するドキュメンタリーを米国のケーブルテレビ局HBOで発表した。

「適切に利用されれば、遠隔医療は素晴らしい」とバロウズ氏はあるインタビューで語っている。「だが、ベッドサイドの医師をテクノロジーで置き換えるというのは正気の沙汰ではない」

裁判で、陪審員らは病院側に過失はないと判断した。合併を経て病院の現オーナーとなっているアドボケート・オーロラ・ヘルスでは、「(電子ICUは)ベッドサイドの医療従事者を代替するものではない。むしろ、さらに多層的な安全のために新たに追加される『目』として機能している」と述べている。

「つきっきりの看病」

カムデンの遠隔医療を担っているセントルイスの企業アドバンストICUケアは、26州90カ所以上の病院と提携しており、合計1300人以上のCOVID-19患者に対応してきた。

同社の最高医療責任者ラム・スリニバサン医師は、「これらの患者には、つきっきりの看病と継続的な調整が必要だ。これこそ私たちがやっていることの大部分だ」と言う。

サウスカロライナ州の感染者数は9月11日の時点で12万6000人以上、確認された死者は2877人を数え、相変わらず新型コロナウイルスの「ホットスポット」となっている。

同州内におけるCOVID-19患者は、3月上旬の同じ日に2人の感染が発表されたのが最初だが、その1人はカムデンだった。歩道で馬に乗ることを禁止する掲示があるような、のどかな地域である。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ダライ・ラマ、「一介の仏教僧」として使命に注力 9

ワールド

台湾鴻海、第2四半期売上高は過去最高 地政学的・為

ワールド

BRICS財務相、IMF改革訴え 途上国の発言力強

ワールド

英外相がシリア訪問、人道援助や復興へ9450万ポン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 8
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    「登頂しない登山」の3つの魅力──この夏、静かな山道…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中