最新記事

米中サイバー戦争

米中新冷戦の主戦場はサイバー攻防戦

U.S., China's Cold War Is Raging in Cyberspace

2020年9月17日(木)17時45分
ナビード・ジャマリ、トム・オコナー

米政府の防諜活動に協力してきた企業の1つがクラウドストライクだ。サイバーセキュリティの有力企業で、ソニー・ピクチャーズを狙った2014年のハッキング事件や、2016年の大統領選前に発覚した民主党全国委員会のメール流出事件など、よく知られた事件の捜査にも協力してきた。

クラウドストライク・サービシーズの社長で、FBIの元次官補でもあるショーン・ヘンリーは、分かりやすい例え話で自社の役割を説明した。

「外国の戦闘機がアメリカの領空を侵犯したら、空軍がスクランブル(緊急発進)をかけて、侵入機を追い出す。同様に、外国の戦艦がアメリカの領海に入った場合も、米軍が即座に対応する」

サイバー空間ではそうは行かないと、ヘンリーは言う。

「仮想空間では、米政府には外国の侵入に対処する能力ないし権限がない」

政府に代わって「こうした攻撃を探知し、マルウェアの動きを止めて、敵の攻撃を無効にする技術を提供する」のが民間部門、つまりクラウドストライクのような企業だ。

それでも侵入は日々起きている。米司法省は9月16日、アメリカや日本など世界の100社以上の企業にサイバー攻撃を仕掛けた容疑で、中国籍のハッカー5人を起訴したと発表した。容疑者らは技術情報を盗んだほか、「身代金」目的でシステムを使用不能にするランサムウェア攻撃も行なっていたとみられる。

大企業が潰れることも

国際法律事務所ドーシー&ホイットニーのパートナーで、司法省の法廷弁護士や海軍長官の特別顧問を務めたロバート・カタナックによれば、「米情報機関は、アメリカの知的財産をサイバー攻撃から守るか、少なくとも損失を最小限に抑えようと、中国政府系ハッカーと日夜、熾烈なサイバー攻防戦を繰り広げている」。

司法省の発表は「その実態を垣間見せるものだった」と、カタナックは本誌に宛てたメッセージで述べた。「司法省の発表で、企業は悪い連中を締め出すサイバーセキュリティの重要性を痛感したはずだ。悪い連中の侵入を察知し、アラートを発するシステムがいかに重要か理解してもらえただろう。悪い連中が本気になれば、彼らの侵入は防げないのだ」

サイバー攻防戦はコストのかかる「いたちごっこ」で、終わりは見えないとカタナックは言う。

「こちらが手を打てば、敵は対抗手段を編み出す。そのプロセスが際限なく繰り返される。予算はどんどん膨らむし、ビジネスの優先順位を考えると、非常に厄介だ」

サイバー攻撃が壊滅的なダメージをもたらすこともある。

カナダの通信機器大手ノーテル・ネットワークスがあっという間に凋落し、2009年に破綻に追い込まれたのも、中国政府系ハッカーの仕業だと、専門家や内部関係者はみている。長年にわたる組織的なサイバー攻撃で機密データをごっそり盗み取られ、人材まで奪われたノーテルは、自社から流出した情報が、中国の通信機器大手・華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)の急成長に役立ったと認めている(ファーウェイ側は一貫して否定)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

政府、25年度成長率の下方修正検討 1%未満の可能

ビジネス

日経平均は続伸、円高一服などで4カ月ぶり高値 3万

ワールド

イラン議会、IAEAとの協力停止法案承認=報道

ワールド

アングル:NATOの北の守り固めるフィンランド、一
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 3
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係・仕事で後悔しないために
  • 4
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 5
    都議選千代田区選挙区を制した「ユーチューバー」佐…
  • 6
    細道しか歩かない...10歳ダックスの「こだわり散歩」…
  • 7
    「子どもが花嫁にされそうに...」ディズニーランド・…
  • 8
    人口世界一のインドに迫る少子高齢化の波、学校閉鎖…
  • 9
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 10
    「温暖化だけじゃない」 スイス・ブラッテン村を破壊し…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 8
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 9
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 10
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中