最新記事

日中関係

反日デモへつながった尖閣沖事件から10年 「特攻漁船」船長の意外すぎる末路

2020年9月11日(金)18時00分
青沼 陽一郎(作家・ジャーナリスト) *東洋経済オンラインからの転載

「とにかく、取り調べにあたったあの2人ときたら......」

当時の船長はトラウマを背負ったように、取り調べの話にこだわり、あからさまに嫌な顔をして、不機嫌になった。相当、気に食わなかったらしい。

「あの2人は、日本でもそのうち殴り殺されるんじゃないか。あの2人がひどいことをするから、中国と日本の関係も悪くなったんだ。両国の損失だよ」

そこまで言っていた。

「中華民族英雄」となった船長の暮らし

船長が暮らすのは、経済特区として知られる厦門(アモイ)から、車で北に2時間ほど行った福建省の港町だった。車も通れなくなるほどに建物が密集した路地を入った、石造りの3階建ての家。分厚い眼鏡に杖をついて歩く船長の母と、ショッキングピンクのスウェット上下を着込んだ妻に出迎えられて、2階の部屋に通された。

そこは20畳ほどのリビングスペースになっていて、隅にソファーセットが置かれていた。そこですぐに目についたのは、大型の薄型テレビの脇に飾られた大きな旗だった。

臙脂色の下地に金文字が書き込まれている。その右肩に「贈」とあって船長の名前が見え、そして中央に大きくこうあった。

「中華民族英雄」

送り主と日付は「一中国百姓 二〇一〇年十月一日」とある。「百姓」とは庶民のこと。10月1日は国慶節にあたり、中華人民共和国の建国式典が行われる。船長が航空機で本国に戻ったのは、9月27日だった。打ち上げ花火とブラスバンドの出迎えがあり、まさに英雄としての待遇だった。

ほどなく階段を上って、黒いジャンパーに濃いグレーのセーター、黒い細みデニムに真っ白なスポーツシューズの船長が現れた。

彼はL字に組み合わさったソファーの角に、私と膝を突き合わせるように座った。茶の産地として知られる福建省では、茶碗で煎れたお茶をおちょこのような小さな器に分けてたしなむ習慣がある。彼は手慣れた手つきで私に茶を振る舞い、ポケットからタバコを出して勧めてきた。

こんな昼間に家にいる。だから尋ねた。仕事はどうしているのか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツ銀、28年にROE13%超目標 中期経営計画

ビジネス

米建設支出、8月は前月比0.2%増 7月から予想外

ビジネス

カナダCPI、10月は前年比+2.2%に鈍化 ガソ

ワールド

EU、ウクライナ支援で3案提示 欧州委員長「組み合
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 9
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中