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反日デモへつながった尖閣沖事件から10年 「特攻漁船」船長の意外すぎる末路

2020年9月11日(金)18時00分
青沼 陽一郎(作家・ジャーナリスト) *東洋経済オンラインからの転載

「仕事には、出ていない」

ぶっきらぼうに答えた。そして、すぐに言った。

「政府の人がすぐに来る。私はそれまでお茶を煎れているだけだ」

どうやら、政府の人間に気兼ねして、私との会話には乗り気ではないようだった。ところが、そのあとに日本での取り調べについて聞くと、そこでスイッチが入ったように、怒気を込めて話し始めた。

「もともとは小さいことだったのに、それがこんなに大きくなった」

そして、冒頭の話につながる。ぶつかってきたのは日本の船だ。そして、火をつけようとしていたタバコとライターを左右の手に持って、「このように向こうが曲がってきたんだ」と、熱く状況を説明する。

「もっと言わせてもらえば、私の船には魚を捕るために必要な許可証からあらゆる書類が全部あった。それなのに解放しようとしない。でも、共産党は強いから、最後には釈放されたんだ」

10年前から漁をしていたと主張

そこまで言うので、私はこう尋ねた。あそこは、中国の領土だと思っているのですか?

「もちろんだ!」

即答だった。そして続ける。

「ただ、俺たちは魚を捕るだけの漁師。政治や時事のことに関心はない。だから、向こうの船が叫べば、すぐに引き返す。それなのに、周りをぐるぐる回って、わざと阻止するんだから。この村の人は昔から役人が嫌いなんだ。警告されただけですぐに引き返すよ」

当時の日本は民主党政権下。それまでの自民党政権では、領海に入った中国漁船は違法操業だろうと、とにかく追い返せ、という指示が出ていた。それが民主党政権になって曖昧になった。そう政府関係者から聞いたのは、これよりもっとあとのことだった。

「どっちにしても、俺たちはあそこから離れたんだ。あんな場所で撃たれたくはないから。向こうの船は大きいし、銃に大砲もある。威圧感もあるし、スピードも速い。こっちはただの魚を捕る船なんだ。あんなに近いと、ぶつかることが心配。例えば、小型乗用車と大型トラックのように。俺たちは潰されちゃうよ」

10年も前から、毎年8月と9月には、あの海域で漁を続けていた、という。いったい、なにが捕れるのか尋ねると、

「剥皮魚」

と、言った。カワハギのことらしい。

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