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イアン・ブレマーが説く「協調なき時代」に起きた米中対立の行方

LIVING IN THE GZERO WORLD

2020年9月24日(木)13時00分
ニューズウィーク日本版編集部

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「今の中国にはWTO加盟時に見られたような各国と足並みをそろえようとする姿勢がない」(ブレマー) REUTERS/Jason Lee

世界が大規模な危機への対応できちんと団結できたのは、第2次大戦の時が最後だ。その団結から、問題の核心に目を向ける偉大な世代が生まれた。あの世代は目の前の大きな問題に団結して対処する必要性を理解していた。だからアメリカ人も「アメリカ第一主義」を引っ込めることができた。おかげで国際連合ができた。かつての国際連盟は悲惨な末路をたどったが、今の国際連合は「世界政府」の理想に可能な限り近づいている。

今の私たちも、あの偉大な世代に負けない姿勢を示し、偉大な何かを生み出す必要がある。

もしも今回のパンデミックが、国連のアントニオ・グテレス事務総長を中心に世界の国々、WHO(世界保健機関)、EU、ビル・ゲイツのような篤志家やあらゆる人々を団結させることにつながっていたら。それができていたら、効果の期待できそうなワクチン候補を3〜10種類程度に絞り、そこに大量の資金をつぎ込むことができていただろう。

しかし私は、今回の危機がアメリカに偉大な世代を生み出すことはないと思う。むしろ大勢のアメリカ人が、今の世界は目に見えぬ誰かに操られていて自分たちの利益にはならないと信じ込み、グローバルな危機に協調して対応していこうという気持ちを失ってしまうだろう。

(米民主党大統領候補の)ジョー・バイデンは多国間の協調を重視する立場だが、仮に彼が大統領選に勝利しても、流れは変わらないだろう。アメリカがリーダーシップを発揮して世界の警察官となり、国際協調の価値観や民主主義の旗振り役となり、グローバルな貿易システムの建設者となることを、アメリカの世論が支持するとは思えない。あいにくヨーロッパにも、アメリカの代わりは務まらない。もちろん中国も無理だ。その資格もない。

米中対立の行方

ポトリッキオ 5年、10年、あるいは15年後のグローバル・ガバナンスはどうなっているだろう? 今の時点で、たいていの人にとっては想定外でも、あなたには確信を持って言えることがあるのではないか。

ブレマー アメリカの大統領がトランプであれバイデンであれ、戦略的かつ地政学的な主要政策課題の多くについて、世界の先進的な産業民主主義国はアメリカと歩調を合わせていくと私は確信している。

一方で、中国とアメリカのパワーバランスは過去数十年でだいぶ悪くなってきたと思う。ただし中国は複数の大きな問題を抱えているので、今の状態が数年先まで続くかどうかは怪しい。この点については別な機会に詳しく話そう。

同盟諸国との関係で言えば、政治的なパワーバランスはもっぱらアメリカに有利な方向に推移している。トランプ時代の今はそう言っても信じてもらえないだろうが、アメリカの軍事力と先端技術力を見れば、どの同盟国もアメリカには及ばない。米企業の重要性も増すばかりだ。

金融部門の力関係もそうだ。この先に金融危機が発生するとしても、米銀の備えは欧州各国に比べてはるかに強力だ。08年の世界金融危機の後、アメリカは崩壊を避けるのに必要な措置を取ってきた。米ドルの役割も大きい。アメリカは食料でもエネルギーでも輸出国だが、同盟諸国はたいがい輸入国だ。一方でアメリカのソフトパワーは減退してきた。道徳や倫理の面でも世界におけるアメリカの立場は衰退している。ところが他国に対してアメリカの望むことをさせる能力に関しては、全く衰えていない。

これは多くの意味合いで問題となる。なぜならアメリカ人に、多国間協調の必要性を見失わせるからだ。私を含めて多国間協調を望んでいる人は多いだろうが、それでもアメリカ人全体としては多国間協調に興味がない。それが現実であり、私たちもそれを認めなければいけない。

トランプ嫌いの人は彼の政権をアメリカの国際的な大失態だと思っていて、トランプを追い出して誰か別な人物を大統領に据えれば以前のような多国間主義に回帰できると信じている。他方で、台頭する中国と劣勢のアメリカという地政学的競争の構図は変わらないと言う人もいるが、私はどちらの見方にも賛成できない。

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