最新記事

核兵器

アメリカは長崎に2つ目の原爆を落とす必要があったのか?

Did the U.S. Need to Drop a Second Atomic Bomb on Japan?

2020年8月11日(火)16時00分
デービッド・ブレナン

日本政府、日本軍の指導部は、ソ連による対日参戦を受けて8月9日の終日、話し合いを行った。そして昭和天皇が翌10日に降伏の「聖断」を下し、15日に国民に向けて降伏を発表した。

長谷川は、長崎への原爆投下は天皇が降伏を決断した一番の理由ではなかったと指摘する。8月10日の時点では、まだ長崎の被害の全容が分かっていなかったからだ。

長崎原爆の爆発の被害は浦上地区をはさむ丘陵地でかなり食い止められ、被害が少ない市街地も多かった。被害の一報を伝えた地元の防衛本部などもそうした地域にあった。「長崎の被害規模は、8月9日のうちには東京にきちんと伝わっていなかった」と長谷川は言う。

2度の原爆投下については、もう1つの仮説がある。原爆投下は必ずしも(日本を打ち負かすために)必要ではなかったが、アメリカの指導部がソ連に対して、自国の大量破壊兵器の威力を示したかったから投下したという説だ。

「必要だと信じたかった」

第2次世界大戦の終盤には既に冷戦が頭をもたげていた。5月にドイツが降伏した時には、西側諸国とソ連は既に、後の「鉄のカーテン」越しのにらみ合いに入っていた。当時はアメリカが核兵器を保有する唯一の国で、米指導部は自分たちの新たなライバルにそのことを知らしめたかった。

原爆には、戦争をできる限り早期に終結させることで、ソ連が日本に侵攻して新たな領土を手にするのを阻止するという利点もあった。ソ連は冷戦において、ヨーロッパとアジアの占領地を代理勢力として利用しており、ハリー・トルーマン米大統領(当時)の政権は、ソ連のさらなる領土獲得を最小限に食い止めたいと考えていた。

しかし長谷川によれば、原爆の歴史に関してアメリカと西側諸国の多くで最も有力なのは、2度の原爆投下は日本を降伏させるために必要だったとする説だ。この説が支持され、受け入れられたのには心理的な理由があると彼は指摘する。

「原爆の使用は、アメリカ人の良心を心底苦しめた。それが心理的な要因だ」と彼は言う。「彼らは、自分たちがした恐ろしいことを、必要なことだったと信じたかった」

長谷川はまた、第2次大戦について広く認識されている歴史があまりにアメリカ中心の考え方で、そのためにアメリカによる説明がほとんど異論もなく定着したとも指摘。多くのアメリカの学者は、ソ連にまつわる要素をある種の「枝葉の(重要ではない)問題」として扱い、日本の政策決定プロセスにほとんど注目することなく原爆の歴史をつづっている、と語った。

<関連記事:原爆投下75年、あの日アメリカが世界に核兵器をもたらした、と各国が非難

【話題の記事】
・コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・新たな「パンデミックウイルス」感染増加 中国研究者がブタから発見
・韓国、コロナショック下でなぜかレギンスが大ヒット 一方で「TPOをわきまえろ」と論争に


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、イランとの協議順調 紛争費用負担でアラブ諸国に

ワールド

米陸軍精鋭部隊、数千人規模が中東展開開始 イラン作

ワールド

中国の大手銀、金利マージン縮小の鈍化見込む 海外の

ワールド

エア・カナダCEO退任へ、死亡事故の弔意で仏語不使
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思われるドローンの攻撃を受け大炎上
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    ビートルズ解散後の波乱...「70年代のポール・マッカ…
  • 6
    アリサ・リュウの自由、アイリーン・グーの重圧
  • 7
    ヒドラのように生き延びる...イランを支配する「革命…
  • 8
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 9
    【銘柄】東京電力にNTT、JT...物価高とイラン情勢に…
  • 10
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 1
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」モナコ舞踏会に見る富と慈善
  • 4
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 5
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 6
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 7
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 8
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 9
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 10
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中