最新記事

写真集

ロックダウンで様変わりするヒマラヤ──写真集で世界最高峰エベレストを体感する

EVEREST

2020年6月17日(水)18時40分
石川直樹(写真家・作家)

写真集『EVEREST』より

<2020年日本写真協会賞作家賞を受賞した石川直樹氏が、シェルパの暮らす麓の村からエベレストの山頂に到るまでの道のりを写真集にまとめた>

コロナ禍によって、ネパールのカトマンズも60日間のロックダウンが行われていた。日本のような緩い外出自粛ではなく、許可なく出歩けば逮捕される厳格なロックダウンだったので、人でごった返す混沌としたあのカトマンズの雰囲気はすっかり変わってしまったようだ。見た目の景色だけではない。観光収入によって成り立っているネパールの経済も壊滅的な打撃を受けた。なにしろエベレスト登山の入山料だけで年間3億ドル以上の経済効果があると言われる。エベレストだけでなく、他のヒマラヤの山々も含めると、どれだけの衝撃だったか推して知るべしだ。

そのかわりにもならないが、排ガス公害で汚染されたカトマンズ上空の空気が澄みわたり、この数十年で初めてカトマンズから世界最高峰のエベレストが見られた日もあったという。なにしろ排気ガスと土埃で瞬きするだけで目が痛くなるほどの猥雑な都市だったので、それが改善されるのは喜ばしい。ただ、そんな環境面での吉報も経済の打撃に比べたら、焼け石に水である。

エベレストをはじめとするヒマラヤ地方の登山やトレッキングの最盛期は、春と秋。なかでも3月末から5月末に至る2カ月間は、モンスーンが到来する夏前の、もっとも好天が続く時期とあって毎年世界中から観光客を集める。

エベレスト登山に関しては、3月末にカトマンズに集合し、体を高所に慣らしながらベースキャンプ入りして5月中~下旬に登頂する、というパターンがほとんどだ。ぼく自身、2001年には北側から、2011年には南側から、こうした春のシーズンに二度登頂している。が、2020年の今年は外国人の入国もできず、シーズンとコロナ禍の拡大がドンピシャで重なってしまったがゆえに、春が丸々消えた。

エベレストと人間の関わり

もちろん地元の人々の健康のほうが大切だし、小さな集落でクラスターが起ころうものなら、無医村ばかりのヒマラヤ地方ではあっという間に感染が拡大する。従って、入山禁止は正しい措置に違いないのだが、そのために収入の途絶えた現地のシェルパたちについては何らかの形でサポートが必要だろう。

このたび出版した写真集『EVEREST』(CCCメディアハウス)では、山と交わって暮らすシェルパ族の営みを出発点に、彼らと一緒に登ったエベレストの"現在"を撮影したものだ。エベレストのあるクンブー地方の中心は、ナムチェバザールとそこに隣接するクムジュン村である。シェルパ族の故郷であり、登山のガイド仕事で生計を立てるシェルパが多く住んでいる。そんな村から眺めたエベレストと世界第四位の標高を誇るローツェを写した写真から、写真集ははじまる。

そこから徐々に標高をあげていき、エベレストの山頂に至るまでの光景を、シークエンスによって構成した。普通の山の写真集と異なるのは、圧倒的な山の自然を写したというよりも、エベレストと人間がどのような関わりをもっているか、という点に焦点をあてていることだろう。エベレスト「を」撮る、というよりも、エベレスト「で」自分とエベレストとの関わりを撮っている、と言ったほうがわかりやすいかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領、代替関税率を10%から15%に引

ワールド

中国、米国産大豆追加購入の可能性低下も 関税違憲判

ビジネス

トランプ関税違憲判決、米エネ企業のコスト軽減 取引

ワールド

米USTR、新たな301条調査開始へ 主要国の大半
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 2
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官が掲げる「新しいスパイの戦い方」
  • 3
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルーの大スキャンダルを招いた「女王の寵愛」とは
  • 4
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
  • 5
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 6
    ロシアに蔓延する「戦争疲れ」がプーチンの立場を揺…
  • 7
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    「窓の外を見てください」パイロットも思わず呼びか…
  • 10
    揺れるシベリア...戦費の穴埋めは国民に? ロシア中…
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 3
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワートレーニング」が失速する理由
  • 4
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 5
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 6
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 7
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 8
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 9
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 10
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中