最新記事

写真集

ロックダウンで様変わりするヒマラヤ──写真集で世界最高峰エベレストを体感する

EVEREST

2020年6月17日(水)18時40分
石川直樹(写真家・作家)

収録された80点近い写真は、すべて中判のフィルムカメラで撮影している。カラーネガフィルムから六つ切や四つ切サイズに焼いたプリントを入稿し、印刷した。今回は通常版として縦24×横30センチのサイズの本の他に、「ビッグブック」と呼ばれる超大型の写真集も作った。判型は縦69×横42.6センチ、重量は11キロもあって、ビッグブックという名にたがわない存在感を放つ。小さな机よりも少し大きな写真が見開きで連続する構成は、巨大なヒマラヤにこそふさわしい。この大きさで写真を見ると、手ぶれや焦点のズレも強調されてしまうがゆえに、セレクトも慎重におこなわざるをえなかった。手焼きしたプリント群を忠実に再現し、ビッグブックに落とし込んだ最先端の印刷技術の精緻さも伝わるはずだ。

通常版はタイトル通り『EVEREST』の登頂に至るまでの過程を撮影したもので、ビッグブックのほうは、それに加えて世界第二位の高峰K2の麓の村から頂上直下に至るまでの写真も収録されている。エベレストの何倍も登るのが難しいとされるK2に登りながらフィルムカメラで撮影するのは、ぼくには手に余る挑戦だった。二回にわたるK2遠征によって文字通りもぎとった66点の写真を、ぜひビッグブックの大きさで見てほしいと思う。

books200617-everest02.jpg

昨年12月の写真集発売時に銀座蔦屋書店に設けられた展示スペース、手前中央に置かれているのがビッグブック

写真は大きくなることによって、情報量が増える。写っているものは小さくても大きくても変わらないのだが、大きくなればなるほどそこから読み取れる情報量は深くなる。例えば、こんな場所に人がいたのか、この斜面で雪崩が起きている、こちらのルートのほうが歩きやすそうだな、などなど、手札サイズの写真では気づけなかった発見が出てくる。写真が大きいことによって、目の解像度があがるような感覚で、ヒマラヤの襞のひとつひとつまで見ることができるわけだ。当然色校正をはじめ、ダミーブックを作るような作業も、その大きさゆえに非常に苦労を擁した。一方でこうした作業によってエベレストやK2の写真のディティールをあらためて見つめ直し続けた数カ月間は、ぼくにとって気づきの多い貴重な時間と相成った。

コロナ禍によって、今夏の富士山登山さえも禁止されることになり、人々の足は山から遠のく一方だ。せめて写真集の中でエベレストに登ってみてほしい。そこにあるのは世界最高峰として名を馳せるエベレストではなく、あのときのその一瞬にのみぼくの前に姿を現した巨峰である。

新型コロナウィルスの感染拡大が収束し、秋にはまたネパールに行けるだろうか。シェルパたちとまたヒマラヤの山々へ向かえる日が早々にくることを願ってやまない。


 『EVEREST
 石川直樹著
 CCCメディアハウス

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

20200623issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年6月23日号(6月16日発売)は「コロナ時代の個人情報」特集。各国で採用が進む「スマホで接触追跡・感染監視」システムの是非。第2波を防ぐため、プライバシーは諦めるべきなのか。コロナ危機はまだ終わっていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国が北京で軍事パレード、ロ朝首脳が出席 過去最大

ワールド

タイ与党幹部、議会解散の用意と発言

ワールド

再送-アングル:アルゼンチンで世界初の遺伝子編集馬

ワールド

豪GDP、第2四半期は予想上回る+0.6% 家計消
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 5
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 10
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中